お姫様がやってきた
薫姫
第1話 薫姫のお成り
いばりんぼうの姫は、錦ガメという種類で勿論日の本の者ではない。外つ国の生き物で、あの世間で悪名高き者たちと、同じ出身である。ただ彼の国では絶滅も危惧される程の弱~い存在だ。
特徴は日の本のカメを知っているなら、一目瞭然。まずお目目が丸くない、つぶらな瞳の外つ国のカメがいたら拝んでみたいもんだ。爬虫類だぞ~と主張するこの顔と、滅多に引っ込まない長い首。こんなに長けりゃ何かいい事が多分あるんだろう、きっとうん。後は爪はやたらと長い。しかも気性が荒い。
ウチのお姫が活発に動くのは、桜が咲き始めるかなぁという、春のお彼岸の頃から暑さも落ち着いてそろそろ冬の準備でもするかなぁという頃までの期間限定、約6~7ヵ月程である。動き始めると、どうなるか!?家中大変なことになるんだよ。ウサギとカメの話を知らぬ、日の本の者はおらんに違いないがカメはゆっくりと、のんびりとマイペースを保ったまま最後は勝利を掴むという、まっことよく出来た話ではあるが、あれは多分日の本のカメだからに違いない。外つ国のカメは、板の間の廊下や台所を勢いよく駆けるのだよ。運送屋のお兄さんイヌ・ネコが苦手で、勢いよく駆けるウチの姫に一瞬怯んでしまったよ、申し訳ないことをした。それから隅っこが大好き故、時折家の中で行き方知れずとなり、とんでもないところで発見アンド誇りまみれという結果をもたらし、掃除という有り難い仕事を執事に与えてくれるのさ、ふん。
今年はと言うか去年の冬から巷がおかしいので、今年ばかりは動き出すのが少々ズレた。執事は少~し楽をしたぞ。う~ん毎年こうなら安泰だか、そうなると季節がぐちゃぐちゃになるが…。
閑話休題 で、名前ね。薫と申します。姫が来た頃、執事が見ていたドラマの登場人物から頂いた。男の子(おのこ)ではなく多分女の子(おひめ)だろうと言うことで、まあどっちにも使えるのでこの名前に。姫は貰い子だ。今から12年と少し前の暮れに某水族館の建て替えに伴う養い親としてこの姫を引き受けた。ウチに来た頃は執事の掌に乗る程しかなく(今は掌を少しはみ出す程度)、とにかく大人しく、時期が冬であったことでエサも食べない。そう本来カメは冬眠する生き物(もしくはじっと動かない)なので仕方はなかったのだが、ハハは大層心配をして迎えた4月、大きなネコを被っていたことが判明したのである。食べる・駆ける・いなくなる、三拍子も四拍子も揃ってまぁどうしましょうと言う事態を迎えたのである。ちなみに姫は、水カメである。陸ガメはない。では、なにゆえに家の中を縦横無尽・好き勝手に動いているかと言えば、普段は水と石の入った衣装ケースに住んでいる。で、ハハが運動不足とストレスを心配し(イヤ ただ相手をしたかっただけだと思うが)朝・夕プラス昼のわずかな時間 家にウチに上げることになったのである。
その某水族館が立派に出来上がったなら、きっと帰るんだな返すんだなと思いつつ約3年。しかししかしである。何の音沙汰もなし。イヤ確かにその頃には、ウチの中でも返さん方がいいという声が大多数を占めつつ(約5人ね)、執事は迷っていたが
それでも何の連絡もないのは薄情じゃあありませんか。かくてこうして晴れてウチの姫となったのだが、それからどうなったか。わがまま放題の姫の一丁上がり。
この姫を飼い始めてカメの概念と思い込みが天地程ひっくり返る事態となった顛末は次のお話といたしましょう。
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