第14話 勉強のめちゃめちゃ出来るおれが数弱の後輩ちゃんに数学を教えるよ

 書き上げた短編の感想が欲しくなったものの、ゴールデンウィーク後、立花と会える確証のないおれは次の二択で迷っていた。


1.立花に連絡先を尋ね、テスト後に感想をもらう


2.立花に感想をもらうのを諦める


 数秒悩んだおれは口を開いた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ・・・・・・・開こうと思ったのだが、立花が勉強をしていたので声をかけるのはまた後にする。


 つまりおれは立花に連絡先を聞くことにした。


 まあ感想は割とガチで欲しいので。


 さて何をしようかとtwitterを巡回しながら、ぼんやりと考える。べつに何度も自身の短編を読み直してもいいのだが、読み終えたばかりだし見えるものはあまり変わらないだろう。やるならもっと時間をおいてからの方がいい。まあラノベでも読むか。


 そんなことを考えながら、ぽちぽちソシャゲの周回をしていると立花が一瞬こちらを見たのに気づいた。


「?」

「(ふるふる)」


 どうしたのか、と視線で問うてみると立花は首を振って何もないと答える。


 おそらく普通に何か用があありそうなので、勉強でも分かんないのかなー、と当たりを付けながら立花の手元を見てみればやはり詰まっている様子だった。


「どれ悩んでんの?」

「!」


 おれはソシャゲを閉じて立花に視線を向けると、こちらを向いた立花が目を見開いた。


「・・・・・・?」

「・・・・・・」


 しかし、そのまま固まっている。おれがじっと待っていると、頬をじんわりと染めた立花は目をそらして人差し指をさささと動かしていく。


「・・・・・・こ、これです」

「ん。ちょっと見せて」

「は、はいっ!」


 立花の示した問題が光の加減で読みにくかったので、一言断って自身の方に若干寄せる。

 当然おれも自身の身体を立花にほんの少し寄せる。


「!?」

「・・・・・・」


 なにやら近寄ってきたおれに驚いたようで立花はのけぞり、おれが問題を読んでいる間、居心地悪そうにもじもじ身をよじる。

 たいして近寄ってないんだけどな。拳4個分ぐらいは空いてる。


「・・・・・・なるほどな。で、どこで詰まってんの?」

「!?」

「え、なに?」


 大体解答までの道筋も見いだしたおれは立花に問題集を返して視線をちらと向けると、ぎょっとしたように立花がおれを見ていたので全く意味が分からなくてまばたきする。


「え、えっと・・・・・・は、早いなぁ、と」

「ああ、うん、まあ・・・・・・」


 どうやら立花はおれの問題を解くスピードに驚いたらしい。まあ、1年も丸1日勉強してればこんなものである。


「す、すごいです」

「・・・・・・ありがとう」


 なんてことを思いつつ、やはり立花が向けてくる尊敬の眼差しは照れくさくて目を見て礼を言えなかった。


 そんなむずがゆい空気になったりしながらも、適度にヒントを与えながら立花を解答に導いていく。


「わぁ・・・・・・!」

「おつかれ」


 ちゃんと導き出された数値に感動している様子の立花におれはひそかに苦笑する。ヒントを与えられながらではあるが、自分にとっての難問を自分の力で解けたからだろう。

数学って楽しいよなぁ!?


「あ、あの」

「ん?」


さてラノベを読もうと身体の位置を元に戻そうとしたところで呼び止められたので、おれは立花に視線を向ける。


「えと、その・・・・・・」

「?」


ちらちらとおれに視線を向けながら何か言いたそうにしている立花。またキットカットでもくれるのかなー、と思いながら待っていると立花の手元の、別の問題に苦戦していた形跡が目に留まる。


「それも教えようか?」

「!」


 どうやら当たりだったらしく、どうして分かったんですかと驚いた顔をする立花。


「まあ、結構顔に出てたしな。そんなことより問題見せて」

「あ、え、は、はい!」


 差し出された問題に目を通しているととなりから「か、顔に出てた・・・・・・!?」などとちいさな独り言が聞こえてくるのだが、聞こえないふりをしておく。実は聞こえてると知ったら立花、真っ赤に茹で上がりそうだし。


「ふーん。はい、どこまで考えたんだ?」

「あ、あ、あ、え!? こ、ここです!?」


 ぶつぶつ呟きすっかり自身の思考に潜っていたらしい立花はおれが声をかけると、わたわたと視線を動かしおれにノートを見せてきた。「も、もしかして聞こえてた・・・・・・!?」などとおれがそれを読んでいるととなりから聞こえてきたが、例によって聞こえないふりをする。


 立花が解答までのルートに乗れるよう思考を誘導したりしていると、数値が導き出された。


「わ!」

「おつかれ」


 再びぱっと顔を輝かせた立花におれも嬉しくなる。


「えと、その」


 さてさっきから机の上に出しっぱなしのラノベでも読もうとしたところで立花が何やら言った。


「次はどこだ?」

「! こ、ここの意味が分からなくて・・・・・・」


 まあ、おそらく分からないところがあるのだろうと言ってみれば、当たっていたようで立花が1文を指差しながら解説を手渡してくる。どうやら今度は解説で理解できないところがあったらしい。


ふむ、と少し頭を回してから言葉を加えたり、別の言い回しを使ったりして説明すれば立花が理解した。


 今度は神妙な顔つきで「なるほど・・・・・・」と言う立花。理解できたようで何より。


「まだあれば聞くけど」


 おれが言うと、ふむふむ解説を読みながら頷いていた立花が顔を上げわたわたと胸の前で開いた手を振る。


「だ、だいじょうぶですっ。あ、ありがとうございました」


 そしてぺこりと頭を下げた。


「ああ、うん。また分からないところがあったら聞いてくれ」

「は、はい!」

「あ、そだ」

「?」


 嬉しそうにぱっと華やいだ立花に、おれはスマホのメッセージアプリを開く。


「LINE、交換しないか?」


 立花の邪魔にならないようずっと尋ねる機会をうかがっていたのを思い出したのだ。


 すると立花が呆けた顔で固まった。


「立花?」

「あ、は、はい! こ、交換ですね!」


 おれが名前を呼ぶと、はっとした立花はスマホを取り出しおれと同様にアプリを開いた。特に何事もなく無事に交換を終える。


 おれがしまおうとしたところで、スマホが通知を告げた。


「お」


 立花から『よろしくおねがいします!』と文字の添えられた可愛らしいスタンプが送られてきていた。


「・・・・・・っ」


 立花の方を見てみればなんだか頬が赤い。

 恥ずかしいのならやんなきゃいいのに、なんてことを思いつつ同じようなスタンプを送り返す。


「!」

「よろしく」

「あ、は、はい・・・・・・!」


 立花が返事をしたのを見届けておれはスマホをしまってラノベを読み始める。立花も数学を始めた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ラノベを読み終わったおれは荷物をまとめて席を立つ。


「じゃあおれ帰るわ」

「あ、は、はい」

「テストがんばれ」

「は、はい! が、がんばります」


 若干おれから視線を外して言った立花に、おれはふと思い立ってかばんのなかを再びごそごそする。


「?」


 ごそごそかばんの中をあさるおれを不思議そうに見つめる立花の前に取り出したものを置く。


「まあこれでも食べて今日も頑張ってくれ」

「わ! あ、ありがとうございます」


 おれの置いたのはブラックサンダー。嬉しそうにお礼を言った立花に気をよくしつつ、おれはひらひらと手を振って立花に背を向ける。


「あ、あのっ!」

「?」


 すると声をかけてきた立花に、おれは顔だけ振り向く。


「・・・・・・ぇ、ぇと」

「・・・・・・?」


 しかし立花はなかなか用件を言うことなく、もじもじと耳まで赤くして口許をもにょもにょさせている。


 待っているとぼふんと立花から湯気が出た。


「い、いえ、や、やっぱり、な、なな何もないです・・・・・・」

「ならいいけど。まあ、何かあったらLINEで言ってくれ。じゃあ」

「あ、は、はい・・・・・・」


 しゅんとしぼんだ立花に、何を言いたかったのかなぁと考えつつおれは帰った。(明日からも来ますかと聞きたかった)


 明日から大学! 行きたくないよぉ!!!!!!!!!

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