第25話 再び立ち直ってみた
「さて、テクテクは大丈夫かしら……」
悪魔軍曹を倒したティアラは急いでテクテクの家へと向かっていた。しかし、さほど心配はしていなかった。何故なら、シャルルが先にテクテクの元へと向かっているのを知っていたからだ。
そうして、テクテクの家にたどり着いたティアラは、悪い意味で予想を裏切られた。
そこには、地べたに座り力無く項垂れるテクテクの姿があった。
「テク……テク?」
予想外の姿に思わず言葉を詰まらせるティアラ。その口から漏れ出た呟きに気がついたテクテクは、縋るようにティアラへと駆け寄った。
「ティアラ……、ティアラ!シャ、シャルルお姉ちゃんが!シャルルお姉ちゃんが!!」
「テクテク、大丈夫。大丈夫だから落ち着いて。一体何があったの?」
普段なら喜ぶ場面ではあるが、流石のティアラも今回ばかりは巫山戯ることなく、テクテクの手を取りその話に耳を傾けた。
「シャルルお姉ちゃんが、悪魔に攫われて、私が近くにいても普通で、あんな悪魔今まで見たこと……」
テクテクは肩を震わせながら、ティアラに向けて気持ちを吐露する。
「私の目の前で、私何も出来なくで、怖くて、悔しくて」
「それでテクテクはどうしたいの?」
1度全てを吐き出せば前を向ける。それがテクテクの長所だとティアラは知っていた。
「シャルルお姉ちゃんを助けたい!!」
「ふふ、ようやく目が合ったわね。それでこそ私の大好きなテクテクよ!!」
その目には、確かな熱意と決意が宿っていた。
「モ~」
「あ、ミノちゃんも心配かけちゃったね」
いつの間にかテクテクの後ろにミノちゃんが寄り添っていた。そして、そのふさふさの尻尾でティアラの顔を撫でた。
「モ~モ~モモモ~」
まるで、『まーまーやるやん』とティアラを労っているかのような、見直したと言わんばかりの尻尾捌きでティアラの顔面を撫でまわした。
「ミノちゃんに認められた!? これはもしかして外堀を埋められたので――あいたぁ」
そして、調子に乗りかけたティアラのおでこを打ち抜いた。
「って、ティアラその服どうしたの!」
テクテクは冷静になったことにより、ようやくティアラの無残な姿に気が付いた。
「あ~、ちょっと来る途中に小石に躓いちゃってね」
「小石に躓いたって……怪我してない? どこも痛くない?」
「ポーションを使ったからもう大丈夫よ。それに、お返しにその小石は粉々にしてやったわ」
「もう、無茶しないでね? ティアラに何かあったわ私泣いちゃうからね」
テクテクは自身の額をティアラの額にコツンと当て、ティアラがこれ以上大きな怪我をしないように神に願った。
「それじゃあ、似たような服がまだ合ったから持ってくるね。ちょっと待ってて」
そして、テクテクは急いで衣服を撮りに戻った。
ティアラは鼻血による大量出血で、貧血により気を失っていた。
「セバス様、只今戻りました」
悪魔大尉は人間の姿に戻り、グラファスの館へと帰還していた。その肩にはしっかりとシャルルが担がれている。未だ気を失っているようで動き出す様子もない。
セバスはそんな様子を横目にして、満足げに頷いた。
「あぁ、戻りましたか。で、その人間が?」
「はい、この人間がテクテクなる女の大切な人間です」
「そうですか、大切な人……はい?」
セバスは一瞬自分の耳を疑った。思い違いでなければ、自己の出した命令はテクテクなる女を連れてくること。ただその一点だったはず。
「私は確かテクテクという女を連れてこいと命令したはずですが?」
「はっ、それがテクテクなる女は精神攻撃が効かず、それならばと痛めつけたのですが言う事を聞こうとはせず、挙句のはてには自害を選んでしまいそうになりましたので、少々予定を変更させていただきました」
「あぁ、そうでしたね。貴方たちは戦闘に特化している分、悪魔のくせに精神系の魔法は苦手でしたね。」
「面目ありません。なので、仕方なくテクテクなる女の半身にも等しいこの女を攫ってきたのです」
セバスは、これなら自分が直接出向いた方が良かったのではないかとため息を吐いた。
「いや……」
もしかしたら、ターゲットがこの館の主の様に精神耐性が高い人間の可能性もあると思い至り、セバスは計画を瞬時に変更、上方修正した。
今の様に、グラファスを自身の思うように操れるまでに要した労力を考えると、人質によって素直に言うことを聞いてもらえる方が、少ない労力で済むのではないかとセバスは考えた。
「そうですね、手間は増えましたが左程気に留める程でもないでしょう。ご苦労様です」
「はっ、ありがたきお言葉」
「それはそれと、軍曹はどうしましたか?」
悪魔の関係は序列絶対。そのため、部下が報告前に何処かに行くのは先ずあり得ない。それなのにこの場にいない悪魔軍曹。それの意味することは……。
「はっ、軍曹にはテクテクが素直に言う事を効きやすくなるように、街を蹂躙しておくように命令を出しています。今頃楽しんでいるのではないでしょうか」
「分かりました。それでは私は色々準備をしていきます。後の処理は頼みましたよ。その女は大切な道具です。地下の牢屋で死なない程度に食事を与えておきなさい」
そうしてセバスは自室へと引き返した。
下等生物である人間は自分たちに叶うことが出来ない。それは全悪魔共通の認識であり、実際ただの人間では悪魔に勝てることは逆立ちしても無い。しかし、彼らは知らなかった。人類に光を照らす希望の存在を。
悪魔大尉はセバスに言われた通り、地下へ降り、牢屋の中へ担いでいた女を放り投げた。物言わぬ、魂のないただの人形を。
「これから面白くなりそうですね」
彼らは知らなかった。自身を遥かに上回る存在がこの世界にいることを。
酪農していたらいつの間にか聖女認定されていた件 @NurseShop
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