そして歯車は加速する
「ここで終わってしまっても良いのか?羽紫雄二」
聞き覚えの無い声が心に直接事承けを求める。
「お前は何者なんだ―魔法?」
見渡せば暗く、深い黒。ここが自分の意識の中だということはすぐにわかる。
「私は何者か、そうだな…………私は雄二の一部だ、君の選択次第で歯車を止める錆になれば加速させるオイルにもなる」
一部?選択? 脳の整理が追い付かない。
「雄二、君は禁忌を…いや、少女を救った。そうだな?」
「笑わせんな、俺の一部とやらが口を濁すなよ。禁忌にふれたのは事実なのだから」
「――――――」
互いに無言の間が続く。
「まぁその、選択とやらをきいてやるよ」
急激な温度の変化に伴い辺りの空気は重さを増す。
「今、雄二の魔力は不安定な状況だ。理由はわかるよな?」
「禁忌か?」
「そうだ、魔力は生きている。雄二が禁忌に触れたことによってパニックを起こして身体を内から壊している」
「それでも雄二は今まで通り羽紫家の道をすすむのか?」
その問いに不意に笑う。
――そんな簡単な選択。
「俺の返答はNOだ」
迷いの一つもないその声は闇により響き余る。
「禁忌に触れると決めた時点で今後俺に魔法を扱う資格が無いとわかっている」
「今は命以外惜しくない、もう不要なんだ。不安定な魔力もお前も…」
その言葉には相槌ではなく空気のこぼれる音がする。
「ぎゃははははははは」
渋い声に似合わない甲高い声。
「雄二でも命は惜しいんだな、かわいいやつめ!」
「かわいいってなんだよ」
見透かされたようで照れる。笑い声は終わらない。
「魔力が無いこと、それはアンブレッジに対抗できない、羽紫家の者としてもㇰㇰ」
「おい、笑いこらえきれてないぞ!」
甲高くも不快ではない。重い空気から一時離れ最後の決断をする。
「命より魔法を優先する人でなしなら、そもそも少女なんて救ってない」
「俺は羽紫家を継ぐ事よりも大切な事ができた」
――刹那 禁忌魔法を使った時の事を思い出す。
「神に問い訪ねたんだ、答えを見つけるまでは何とか生き延びて見せるさ!」
その瞬間まばゆい光に包まれる。
「良い選択じゃないか。しかし残念、雄二の願い通りに私も消えるわけにはいかないのさ」
「私は雄二の生まれた時から誕生し、切ろうとて切れない、いわば呪いのようなものだ。この世界で生き延びるなら私を上手く使うといい」
その言葉を口にして呪いは気配を消した。
胸やけがする――呪いとやらは心臓部分にでも住み着いているんだろうか。
そんなことを考えながら目をつむる。
次に目を開けた時には見慣れた光景が待っている。
そんな気がした。
魔法に嫌われた俺と君を好きになった私 石兵八 陣 @realsky
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