魔法に嫌われた俺と君を好きになった私

石兵八 陣

禁忌に触れる

その少女は救いを求めていた。


絶望に満ちた暗い目は僅かな光さえこぼさないだろう。


季節感の無い白のワンピースが雨に濡れ女性の魅力的な部分を強調する。


「た すけ……」


言い終える前に、少女は意識を失い道端に倒れてしまった。


恐らく最後の力を振り絞ったのだろう、一般的な回復魔法の詠唱法が記された教科書

をカバンから取り出しながら走り、症状を確認する。


よく見てみると身体のあちらこちらに老朽化したガラスのようなヒビが入っている。


「――くっ」


臍を嚙む。


今年で13歳、まだまだ魔法に関して未熟者の羽紫 雄二だがこの症状には見覚えがあった。


「才能暴走」


この世には<オリジナルスキル>を持った者が稀に生まれることがある。


オリジナルスキルは生まれ持った者にしか使えない魔法であり、保持できる最大魔力量に対してオリジナルスキルの魔力が上回った場合に才能暴走は発症する。


才能暴走は不治の病と言われ、生き延びた例が無いと言われている。


「また……また目の前にいるのに救うこともできねえのかよ…」


魔法面で数々の実績を出している羽紫家の長男にとって才能暴走を見ることは初めてではなかった。


過去のトラウマが迫ってくる。


「やめろ!やめてくれ!」


脳が勝手に目の前の少女を才能暴走によって亡くなった妹の霞と照らし合わせてくる。

「ごめん……俺には助けられないんだ……」


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、助けて苦しいよ……」


過去の記憶が鮮明によみがえる。


治せるはずが無いと理解していながらも手が無意識に一冊の詠唱本を握った。


テーマは<禁忌>


「これは――」


父の書斎から持ってきたものだ。


「禁忌って確か、死者の蘇生・過去の改変・魔力量の拡張だっけ?」


昔からこのテーマの扱いに関しては父にこっぴどく指導されたものだ。


「―――――」


今だけはこの詠唱本を握っていると父がそばに居るようで落ち着く。


気づけばさっきまで囚われていた過去の記憶に踊らされず、<禁忌>のページをめくっている。


「禁忌にはこの子を治す方法がきっとある」


少女を蝕むヒビは最終段階に移っている、少女が死ぬまであと1分も無いだろう。


だが、ページをめくる雄二の指には震えがない、見落としが無いように1ページごと

にたっぷりと時間を使う。


「これが保持魔力拡張の詠唱法か」

「少女の魔力量を拡張し、俺の魔力を移せば。オリジナルスキルを保持でき、才能暴走も治まるだろう」


早速詠唱にうつる。


「自分が今 魔法を扱う身として、いけない事をしようとしていることなんて分かってる」


だけど。


だけどさ。


だから―――


神に問いたい。


「禁忌に触れる罪と目の前の少女を見殺しにする罪はどっちが重いんだよ!!」


雄二は詠唱を唱えた。


雄二は禁忌に触れた。


後のことは覚えていない。


ただ自分を満たしていた魔力が離れていく感覚のみが染み渡る。

















 





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