第43話 いらぬ詮索は身を滅ぼす
「我々は、実体がない。それでは、不都合でな、ゆえに偶像とはいえ、このように人型を用いておる。人間界には見える者もおるが、見えぬが通常ということを肝に銘じておくがよい]」
「はい」
「おみねに関しては、そなたと生きることになる。それがふたりの合意じゃ。そなたが力を付け、おみねが望めば個別の魂として、その願いを叶えてやってくれ」
「心得ました」
「そなたは二十歳に満たずに息絶えた。なのに、おみねの生涯を見ることができた。なぜだか分かるか?」
「時空を、越えた?ということでしょうか」
「そうだ、ただ違うのは、時間の概念じゃ。人間界の十二年が我らの一年。一年は一ヶ月となる。最初に会った時から、おみねの映像を見せるまでに、実は六十年程が経っておった。それ故、おみねの生涯を見れたわけだ」
「そんなに…」
「そなたのようにこれからとこれまでを行き来したような不思議な体験をした者も少なくない。しかし、彼らは我らのような者との繋がらりがなかった。いや、あったやも知れぬ。ただ、その行き来が継続した話を聞かない。だとすれば、時空の狭間にたまたま嵌ったと考えるのがよかろう。その体験は、迷信や昔話、はたまた妖怪などの仕業として、後世に残されている。時空で言えば、浦島太郎の玉手箱かな。そなたがここへ来たのは、暦でいえば千六百七十年近いということになる。私としてもこの世界の全てを知るものではない。ここにこうして生きているそれが全てじゃ。いらぬ詮索は身を滅ぼす結果に成やも知れぬ。それこそ、神のみぞ知るじゃよ」
「ここでは、私の歳はここでは、何歳とされるのですか」
「そうじゃな、そなたが江戸から大坂を目指した。その過程で、長期滞在もあり、魂が肉体から離れたのが、江戸を出て二年余り。そこから計算すると四歳半程か」
「五歳にも満たないと…」
「本来、魂の年齢は、呪縛解き放ちから、時計が動き始める。呪縛とは、著名人を除き、そなたの存在が、生きている者の記憶から消えた時、呪縛が解き放たれる。三回忌とか言うであろう。あの回忌とは残された者が亡くなった者への悲しみが和らぐ時間を表しておる。忘れられると言えば分かり易いか、回忌が少ない程、早く転生できると言う理屈だ。ほれ、死んだ子の歳を数えるな、と言うのがあろう。あれは、この世をこの世とも分からず亡くなった者に早く転生させ、やり直させてやって欲しいと言う願いから、誰ぞやの口を借り、伝えたものだと聞いておる。その点、幸いにもそなたは、天涯孤独。友人と呼べる者もいなかった。おみね以外に。即ち、私も、言い方は悪いがおみねの死を待っていたことになる」
「まさか、おみねの命を法師が縮めたとか」
「それはない。我らに出来ることは、死神が管理する生命の蝋燭を操作することぐらいじゃな」
「どういう意味ですか」
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