第40話 獅子身中の虫の真偽とは?

 「龍之進様…龍之進様…」


 間違いない、おみねの声だ。


 「おみね、おみね、おみねだね」


 龍之進は、姿の見えない、おみねを必死で探した。


 「お久しゅう、御座いまする」


 龍之進の目前の空間が歪み、陽炎のような人影が現れ、徐々に輪郭が鮮明になっていった。そこいたのは、紛れもない、映像で見た二人目のおみねだった。先程まで、微かなかすれ声だったが、輪郭と同様に明確になった。


 「龍之進様、おみねで御座います」 

 「おみねだね、おみねだね」 

 「そうで御座いまする」 


 龍之進は、小躍りしそうな感慨に満たされていた。


 「法師のお計らいで、いま、こうして、お会い出来ておりまする」 

 「法師、改めてお礼、申し上げます」


 龍之進は、感謝の気持ちでいっぱいだった。


 「私は私の生涯を悔いてはおりません。ただ、龍之進様への仕打ちが胸を突き刺し、それが、心残りでした。改めて、浅はかな、私目をお許しくだされ、これ、この通りで御座いまする」


 おみねは、立ったまま、ゆっくりとこうべを垂れた。

 

 「許すも許さぬもない。元はと言えば、私の浅さが招いたもの。私が思慮深かければ、他の道もあったであろうと思うとその方が、無念極まりない」

 「それでは、おみねを恨んでなさらないと」

 「あぁ、恨んではいない」

 「嬉しゅう御座います」


 そう言った後、おみねが、す~と滑らかに近づいてきた。龍之進はそれに合わせて、立ち上がった。側まで来たおみねの肩にそっと手を伸ばした。


 感じる、感じる、おみねの感触を。龍之進は、興奮を隠しきれなかった。


 「私が、法師にお頼み申し上げたのを、快く承諾くださったのです」 

 「おみね」


 龍之進は、夢にまで見た、おみねをいま 抱きしめている実感に酔いしれていた。


 「苦しゅうございます、龍之進様」

 「あ、済まぬ」


 言われて力を緩めるとおみねは、二・三歩、退いた。


 「嬉しゅう御座います。改めて、私を抱きしめて戴けますか」

 「あぁ、勿論。さぁ、私のもとへ」


 おみねが、一歩踏み込んだ瞬間、周りが濃い灰色の曇天に覆われた。龍之進は何が起こったのか、周りを探りながら、おみねを引き寄せようとした。まさにその手がおみねに触れようとした時、雷鳴が激しい音を唸らせ、電光が龍之進の側に落ちた。その凄まじさに思わず龍之進は目を閉じた。再び、目を開けた瞬間、目の前のおみねの形相が、劇的に変貌していた。それは、まさに鬼の形相だった。 


 「何、何があったんだ、おみね」

 「おみね、だと!軽々しく呼ぶな!わらわは、お前の精で苦渋を舐める人生を送らされたわ。この恨み、そなたを喰ろうて、晴らしてやるわ」


 鬼の形相のおみねの口が大きく裂け、龍之進の頭上に覆い被さってきた。

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