第29話 老いらくの恋は、悪戯好き

 越後忠兵衛は、財力とコネをふんだんに使い、貞操帯とおみねの部屋の手配を伴の者に言いつけ、その一人に耳元で何やら囁いた。

 忠兵衛と佐吉は、正式に約束事を書面にして交わした。

 おみねは、しばらくし、里帰りと言う事で忠兵衛が連れ出した。

 忠兵衛と佐吉の計らいで、おみねが外の世界への希望をできる限り、抱かないように、籠屋を呼び、日が暮れての移動となった。

 おみねは、かどわかしにあったような面持ちだった。忠兵衛の別宅に連れていかれたおみねの部屋の前には常に、忠兵衛が手配したくノ一のような目つきの鋭い女がふたり、鎮座していた。


 翌日、忠兵衛が訪ねてきた。見知らぬ男を連れて。


 「おみね、どうじゃ、不自由はしてないか」 

 「何が不自由だ、監視つきで」 

 「ま、そう言うな。あそこにいては経験できないことをしてるんだからな、許せ」


 退屈と監視を除けば、天国だと、おみねは思っていた。


 「今日は、おみねに受けて貰いたいことがある」

 「なんだね、改まって」

 「他でもない、約束事の件じゃ」

 「まだ、何かあるのか」 

 「そうじゃない、確認じゃ、確認」

 「なんだい、やっぱり、やりたいだけじゃないか。自分ではできなかからって、こんな爺に代わりをさせようって魂胆だな」

 「落ち着け、ここにおられるのは了庵先生じゃ」 

 「おらぁ、病気か」

 「そうじゃない、確認したいだけじゃよ。一度、心配し始めたら、とことん解消しないと気が済まない性分でな、悪く思うな」


 忠兵衛は、悪戯ぽい笑みを浮かべていた。あの時、伴の者に耳元で囁いていたのは、この手配のことだったんだ、とおみねは悟った。


 「で、どうすればいいんだ」

 「了庵先生、どうすれば…」 

 「では、そうだな、この台の上に座ってもらおうか」 


 おみねは、怪訝そうに座った。了庵は、おみねの膝に手を置いて、左右に大きく開いた。 


 「何すんだ!」 


 おみねは、了庵の突然の行為に驚きを隠せないでいた。


 「何すんだって、お前が生娘か調べるんだろ。そうだろ、忠兵衛さん。おみねに伝えてないのかね」

 「ああ、忘れていた。済まない。おみねを信じないわけではないが、私の性分なんだ。はっきりさせないと気が休まらないんだ。許してくれないか」

 「構わねぇけど、何をどうするんだ、それをちゃんと言え。でないと、こっちとらも落ち着かねぇだ」 

 「そうだな、おみねの言う通りだな。了庵先生、宜しく頼みます」 

 「おみね、忠兵衛さんの気持ちを察してやらないか。わしは忠兵衛さんとは長い付き合いじゃが、これほど、おどおどした忠兵衛さんを見たことがない。お前のことは忠兵衛さんから聞いておる。聞いておるこっちのほうが恥ずかしくなるほど、忠兵衛さんの心は何も知らない少年のようじゃよ。笑っちゃいけないが、老いらくの恋ってやつみたいだな」


 了庵が話している間、あの恰幅のいい忠兵衛が、そわそわとして落ち着きがない。おみねには、忠兵衛が可愛く見えていた。 

 

 「分かった。おらぁどうすりゃいいんだ」 

 「簡単なことじゃ、すぐに済む。お前が生娘か調べるだけじゃ。お前の道具が手付かずか調べるために、ちょっと、拝見するだけのことじゃよ」 

 「そんなの恥ずかしいじゃねいか」

 「でも、忠兵衛さんの申し出を受けたんじゃろ。なら、従わねばな」


 おみねは、黙って、納得するしかなかった。


 「良いな」


 おみねは、覚悟を決め、小さく頷いた。



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