第28話 奇想天外の注文

 「済まん、おみねと話していると、なぜか気が楽になるでな。自分でも驚いておる。どうやら、この私が、お前にやきもちをやきそうな。わははは」

 「わはは、じゃねぇは。悪ふざけは好かんとよ」 

 「済まん、済まん。…謝ってばかりじゃの。これだけでも、おみねを世話する価値はある」

 「忠兵衛はんは、ほんに変わりもんだわさ」 


 三人は打ち解け、その場は、和やかな笑いに包まれていた。


 「さぁ、変わりもんの忠兵衛はん、条件って何さ」

 「そうじゃ、そうじゃった。おみねはまだ、男を知らんわな」 

 「それがどうした」

 「本来なら、私がおみねの床入れ相手になりたいところだが、それは叶わぬ。とはいえ、他の男に奪われることなどは考えたくもない。そこでだ、この条件を受け入れれば、約束事の成立じゃ」

 「何なね、条件って、もったいぶるでねぇよ」 

 「私も、今さっき思いついたでな。それはな…それはな…」


 忠兵衛は、急に口ごもった。 


 「あぁぁぁ、いらいらするとね。役に立たんでも、ついとるもんがついとるんじゃろ。さっさと言いなし」

 「これ、おみね」 


 佐吉は、青くなって、おみねを制した。 


 「構わん、そこがいい、そこが」

 「で、なんだね、条件って」

 「それは…それは…」

 「どうせ、言うなら、後でも今でも変わりねぇさ、さぁ、早く言えばいい」

 「それはな、貞操帯じゃ」

 「貞操帯?何だね、それは?」 

 「異国の器具じゃ」 

 「器具?何に使うもんだね」 

 「女の貞操を守る器具じゃよ」 

 「貞操を守る?そんなこと出来るのかね」

 「完全じゃないかもしれない。それで私の気は休まる。どうじゃ」

 「それは、痛いのかね、おらぁ、痛いのは嫌じゃよ」

 「痛くはないはずじゃ、少々、不便だろうが」 

 「どんなもの何じゃ、その貞操帯ってのは?」

 「私もまだ現物は見たことがない。絵で見る限り、鉄か頑丈な革で出来た、腰に巻く器具じゃ」 

 「まぁいい、それを付ければいいんだな、よし、付けてやるわさ」


 おみねには得体の知れない物だったが、忠兵衛を信じようと思った。

 

 「そうか。では早速手配しよう。手配に時間が掛かる。それまで貞操を守るんだぞ」

 「おらぁを信じろ、信じるしかねぇだよ」

 「私は、心配性でな。こうして話ていると、心配になってきたわ。おみねが、襲われるんじゃないか、暴走するんじゃないか…あぁぁぁ、だめだ、だめだ。初めておなごを好きになった時のようじゃよ」

 「大丈夫かね」 

 「佐吉どん、どうかね。おみねを預からせて貰えないか」

 「そりゃ、構いやしないけど。そんなことをしたら、外の世界を知って、もう、戻りたくないとか、おみねの気が変わるんじゃねぇですかねぇ。どうです、裏庭におみね専用の部屋を作り、花魁支度みてなもんを忠兵衛さんがなすっては。心配なら、鍵は忠兵衛さんだけがお持ちになればいい。世話も、忠兵衛が信用できる者を寄こされたら」

 「それはいい、それじゃ、早速、手配しよう」

 「おみねの部屋が出来る迄は、忠兵衛さんがお預かりになっては」

 「それはいい、それはいい」


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