第25話 張りぼての輩は、実のある者に弱いもので御座います。

 「おみね、あのな…」 


 佐吉が、興奮気味に話そうとしたのを初老の男が遮った。 


 「私から話そう、そうさせてくれ」

 「そうですかい、では、お頼み致しやす」


 おみねは、佐吉の態度の豹変振りに鳩に豆鉄砲状態だった。


 「おみねって、言うのか」

 「気安く呼ぶな」 


 おみねは、佐吉の媚びている様子を見て、初老の男に興味を抱き始めていた。 その初老の男から、思いがけない、申し出があったのです。 


 「おみね、お前を花魁にしてやる」 


と、その男が笑って言った。悪意を感じない、穏やかな笑顔だった。

 おみねは、佐吉の顔を{また、おらぁを騙すのか}と睨みつけた。佐吉は、慌てふためきながら{ちがう、ちがう}と首を左右に激しく振った。さすがに、舌先が乾かない間で、それも同じ手口で…。そこまで佐吉が、馬鹿ではないことを、おみねは分かっていた。 

 しかし、悪戯心もあり、確かめずにはいられなかった。これで、はっきりしたことがある。これは、佐吉の企てでないことが感じ取れた。そして、この企ての主犯が、この初老の男であることも。

 おみねは、この初老の男に佐吉のような小悪党的な匂いを全く感じなかった。むしろ、壮大な思惑で物事を動かしているような、器の大きさを感じていた。{おもしれぇ、とことん付き合ってやるべ}と、おみねは思った。

 佐吉とおみねのやり取りはも、初老の男の気にかかるものだった。


 「なんだね、こそこそと。何かあるのかい?」

 

と、不思議そうに初老の男は言った後、気にもとめない素振りで


 「話を続けて良いかな」 


 そう言って、ふたりを相互に見て、仕切り直した。 


 「おみね、お前を花魁にしてやろう」 

 「おみね、おめぇは何てついているんだ。俺は未だに信じられねぇや」  

 

 佐吉は、興奮を抑えきれないでいた。



 「まぁまぁまぁ、落ち着いて、佐吉さん、これじゃ、全然、話が進まないじゃないか。静かにしてくれないかな」 

 「すいやせん」 


 佐吉は、申し訳なさそうに小さくなっていた。それを見て、おみねはいつも横暴な佐吉が平伏している姿を見て、笑いを押し殺すのに必死だった。それと同時に、この初老の男の偉大さを感じ取っていた。 


 「これで三度目じゃぞ、もう遮るな」


 そう言って、初老の男は、佐吉を睨んだ。 


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