第21話 詮索するより、郷に入れば郷に従え。

 「法師、私の言葉使いが可笑しいのですが?ほら」

 「言ったであろう、言葉は生き物のようなもの。時代に寄りて変わるものよ。こうして通じておるではないか。大儀はない。慣れれば問題もない、自由に話せ」

 「確かに違和感がない」


 魂界では意思疎通は、波長のようなもので行う、謂わば、以心伝心のようなもの。

 龍之進は、数百年を旅する法師の言語中枢を借りて話している。意思のみで話すのはまだ、龍之進には叶わないことだった。

 法師は、現代の言語を取り入れていた。龍之進にとっては想像もできない未来で使われている言語だった。当初の違和感はそのためだった。


 「さて、話を進めるぞ。そなた、この世に未練はあるか」

 「未練と申されても…」

 「あるようじゃな」


 龍之進は、何も言えずにいた。


 「あるとすれば…恨み…いや、それはない、自業自得ゆえ…そうか、おみねのその後が気がかりか?優しいのぉ。裏切ったおなごをな」

 「裏切られた。もっと、私が世間を知り、おみねを理解していれば、他の道があったのではと思うと…」

 「お前という奴は…宜しかろう。さすれば、ここに{ふたつ}のおみねの未来を見せてしんぜよう」

 「未来ですか、それもふたつとは?」

 「未来は、展開により無数に変化する。ホームレスが億万長者になるようにな」

 「ホームレス?億万長者?」

 「細かい事を気にかけるな。自然と馴染んでくる故。空界の住人ではないそなたには申せぬが、様々な「分岐点」の選択によりて、未来は変わる。その中から、再現で記した、おみねの「分岐点」から始まる生き様、その両極端のおみねの未来をじゃ」

 「して、そのおみねの未来とは?」

 「良かろう、簡略化して、映像で見せよう。そうじゃ、そなたもその場に連れて行こう。さすれば、心の機微も感じられるであろうからな」

 「連れて行くって、私はもう実体がないのでは」

 「つべこべ言うでない。いまの状況をそなたが、理解できるなど、はなから思っておらん。いまは、私を信じる心だけで良いは」


 龍之進は、法師の言葉を謙虚に受け止めて「はい」と素直に返した。


 「では、参るぞ」


 法師が経を唱えると、白い世界が渦を巻き、歪み始めた。その渦は、龍の姿となり、口を大きく開けたまま龍之進を飲み込んだ。

 龍之進は、龍の口より入り、ダッチロールしながら龍の五臓六腑らしきものを通り抜けた。その次の瞬間、龍の尾からスーと抜け出たたような感覚がした。

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