第10話 過去を振り返り真実を知る
おみねは、佐吉との打ち合わせ通りに、今までの関係を保ち、平然を装っていた。
以前との違いは、こそこそ、会っているスリル感は姿を消し、半ば公認のように自由に会えていた。
その変化に疑問を呈した龍之進は、おみねに聞いたことがある。
おみねは、日頃の仕事ぶりが高く評価され、好き勝手に使える時間が増えた、と答えてその場をやり過ごしていた。
真面目を絵に描いたような両親に育てられた純真無垢な龍之進は、疑う気持ちを持ち合わせてはいなかった。
以前にも増して、楽しい時は、足早に過ぎ去っていった。
再会を果たしてから早いもので約一ヶ月が経った頃でした。深刻な顔で、話があるとおみねが切り出してきた。
「龍之進様、もう、おみねは…おみねは、龍之進様に会えません」
突然の告白に龍之進の頭は、木槌に打たれたような衝撃を受けた。
「なぜだ、なぜだ、おみね」
垣根の隙間から手を差し入れ、両肩を掴み、揺さぶりながら何度も問うた。おみねは、俯いたまま何度も激しく頭を左右に振っていた。
おみねはやっと、重い口を開いた。
「実は…実は、ついに店に上がらないといけねぇーだ。そんらば、客や旦那がついて、もう会えなくなるだ。もういや、こんな所…」
おみねは、大粒の涙を浮かべて見せた。
「どうすればいい、どうすればいいんだ」
人生経験すら貧弱なのに、特殊な世界の掟など分かる術もなく、戸惑うばかり。
落ち着きなく、視線が彷徨う龍之進を、おみねは垣間見ながら、佐吉の筋書き通りに演じてみせた。
その演技の表す内容を大約すると…
おみねは店に上がらなくてはならない。それを避けるには、借金と利息、違約金を払わなければならない。そして、その期限が間近に迫ってるという、よくある話だ。
だが、それでよかった。佐吉は、龍之進のことを調べ上げていた。世間知らずで、親しい友人、知人もなく、相談される心配もないことを。
おみねは、自分の運命の儚さ、龍之進という灯りを見つけたこと、願わくば、それを手放したくないこと、でも、自分ではどうにもならないこと、などを、涙ながらに龍之進に訴えた。
龍之進は、沼地に足を踏み入れ、
龍之進の思考という機能は崩壊し、ただただ、「どうしればいい、どうすればいい」と、繰り返すだけの空虚なものになっていた。
龍之進は、常軌を逸していた。初恋という、特効薬のない病いに犯されて。
見ていた映像が中断し、大言厳法師の声が聞こえてきた。
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