第2話 聞き覚えのある声

「それで、生き残ったのは私達6年2組の30任と、林道先生だけだよ」

雫が、皆の顔を見ながら淡々と言う。

国は焼き尽くされてしまったから電気が付くことも無く、30人と林道先生が集まったこの国外れの森には明かりがなかった。

その分、朝の出来事など忘れたかのように星々が綺麗に輝いている。それを皮肉に思いながら、友樹は言った。

「ありがとう、って事はあの爆発にて国の皆は死亡。国外れの森に逃げた俺ら31人が生き残ったでオッケー?」

「うん、要約するとそんな感じ、まとめるの上手ね学級委員長」

雫は微かに笑いながら頷いた。集まったと言えど数人程。皆話す気力も無く、ただただ重い空気が流れていた。

「これからどーする?皆で心中でもするか?」

赤目は寝っ転がり、目を閉じたまま言った。

しん、と先程以上に静かな重い空気が流れたが、それは冗談言うなと言わんばかりに赤目の前で仁王立ちした來愛によって、断ち切られた。

「何言ってんの、大魔王を倒しに行かないと!」

來愛は声高らかに叫んだ。

「…やっぱり?あんだけされちゃ、やり返さないとな。皆大切な人を奪われたんだし」

朝の出来事は大魔王がやったという噂がある。近いうちに、大魔王が国を滅ぼしに来ると言う内容だ。ただの子供の誰かが言い出したような都市伝説だが、家族もほかのクラスの友人も失った今、その噂に縋るしかなかった。

「…そう言えば、坂木先生って無事なのかな?いつの間にか学校に来なくなって、今もどこにいるかわからないし…」

夏蓮が、ふと思い出したかのように呟いた。

この6年2組の担任の先生_坂木先生は突如3月19日に姿を消した。それからというもの、連絡も無く、生きてるのかもこの国にいるのかも分からずじまいだった。

「まぁ、どっか里帰りでもしてんじゃね?教師辞めて家庭農園でもして楽しんでるだろうさ」

他人事のように、赤目は気楽に言った。

「だといいな…」と夏蓮はしゅんと寂しそうな顔をした。けれど他人事とはいえ、しばらくお世話になった先生。先生の無事を知りたいと純粋に思っていると、森の何処からか

電子音が鳴り響いた。砂嵐が聞こえ、しばらくすると声が聞こえてきた。

『あれま!6年2組の皆さんだけ生き残ったの?残念…まぁ、いっか!』

『てっきりお前らなら死んでるかと思ってたんだけど…さすが6年生と言ったところか!懐かしなぁ?あの日々が』

不安を煽る声色に、聞き覚えのある声に、

生徒の皆が、動揺していた。

『お前らから来いよ、身内を殺された恨み…返せないだろう?お前らと戦うこと、楽しみにしてるよ!』

ぷつん、と音が途切れ、また森には静けさが戻った。別々に別れていた生徒もただならぬ不安を感じ、集まってきた。

「おーい!今の聞いた!?あの人が、あの人!生きてた!」

皐月が葉を掻き分け、息を切らしながらやってきた。何かを必死に訴えようと頑張っているが、半パニック状態に陥っていた。

「ああ、まさか…坂木先生から誘われるとはな…」

赤目は微笑した。

確かにあの声は、聞き覚えのありすぎる坂木先生の声だった。あの噂の大魔王も、坂木先生だった。生徒は皆、顔を見合せた。何が言いたいのか、言わなくてもわかるものだ。

「とりあえず今日は寝ろ!作戦会議は明日!全員集合する事!腹が減っては戦はできぬだからね!」

友樹に促されるまま、皆はそれぞれの寝床へと就いた。そして、明日を待ちながら目を瞑るのであった。

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とあるクラスの勇者30人 柳瀬彰 @mawaru5862

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