とあるクラスの勇者30人

柳瀬彰

第1話 魔の手はすぐそこに

「ねぇ、もし、このクラスがRPGの世界に居たら楽しいと思いません?」


『_じゃあ、先生が大魔王になってやるよ』


きっと君は覚えていないだろうけど、

そんな約束を実現させるために、

息苦しい世界から逃れるために

先生は自ら命を絶ったんだ。




「お前に使命を授けよう、6年2組の奴らを………殺す事だ」

感情の無い、低い声が辺りに響く。

この声の主…大魔王に呼び出された少年、絆は、自分に授けられた使命に目を見開いた。

「…どうして、俺が殺さないといけないんですか、腐ってもクラスメイトの皆を、”先生”が手をかけたって良いはずでは…?」

絆は暗い表情のまま、震える声で、大魔王に歯向かった。そんな絆を、可哀想な物を見るような目で大魔王は笑った。

「いや、俺に殺されるクラスメイトを見るより、自ら殺した方が気が楽だろうと思ってな。殺すのが嫌なら別に良いんだよ。”先生”が殺すから」

大魔王を”先生”と呼んだ絆の古傷を抉るように、大魔王は優しく囁いた。その優しい声が、大魔王になる前の彼を思い出し、絆は耳を塞いだ。

「…いえ、俺が…が、頑張ります」

「ならばよろしい」

顔を俯かせた絆の頭を、大魔王は優しく撫でた。大魔王は立ち上がり、近くに建てられている大きな柱に6年2組の生徒、そして先生の映る写真を貼り付け、ナイフで思い切り刺した。

「俺の人生を狂わせたんだ……それぐらいやってもバチは当たらないだろう?」

狂った笑みを浮かべながら、大魔王は6年2組の皆が写った集合写真をぐしゃぐしゃにナイフで切り裂いていく、負の感情が宿ったその声は、どこか楽しそうだった。

「よろしく頼むぞ」

「…はい、大魔王」

*

けたたましく鳴る目覚ましをどうにか手探りで止めて、しばらく布団の中でぼんやりとする。布団から頭を出し、目覚まし時計を見ると、時刻はなんと8時。

「やっべ遅刻じゃん!」

花火は布団を蹴飛ばし飛び起きた。

「どうして8時にセットしてるの私!」と過去の自分を責めながら、歯磨き、着替え、と素早く身支度を済ます。尋常ではないスピードで身支度を済ませたおかげで、5分もかからなかった。

「あれ、私の魔法で時間巻き戻せば良くね?」

ふと花火は自分の魔法の事を思い出した。

花火は時と炎の魔法を操る事が出来た。

寝過ごした時などは時を巻き戻したりして、

花火とって使い勝手の良い魔法だった。

「と言っても嫌な思い出もあるけどな…、よし、時よ戻れ!」

杖を振りかざし、花火は叫んだ。けれど時は戻るどころか1秒1秒、変わらず進んでいる。

「うぇっ!なぜ!誰かの制御魔法か!?このっ!遅刻する!」

無駄な時間を過ごしてしまった!と潔く諦め、家のドアを勢いよく開けて外に出た。

そして、花火の視界に映ったのは

いつもの様な平和な世界じゃなく、建物がどんどん焼き尽くされていく、非日常な世界だった。時々来る爆風は焼けるように熱くて、人々の呼吸を蝕んでいく。


そして、急に視界が光に包まれたかと思うと、鼓膜が破れそうな程の爆音と共に我が家が大きな赤い炎で包まれた。

「ちっ、何が起きたんだよ…!?」

毛先が火花を飛ばす感覚を肌で感じながら、花火はとりあえず避難場所へと走り出した。

「花火!いた!大丈夫か!」

「…夏目!?どうしてここに!?」

「花火が逃げ遅れてるんじゃないかと思って!探しに来た!」

花火のクラスメイトで、友人である夏目が、

水魔法を体に纏わせながら花火の方へと走ってきた。夏目はすかさず花火に水魔法を纏わせる。

「うわ、涼しい!ありがとう!」

「これで炎の中突き進んでも大丈夫!」

花火と夏目は避難場所へとまた向かった。

向かう途中、見覚えのある姿を通り過ぎ、立ち止まる。

「ひゃっ!?…なにこれ…!?」

獣の耳のような髪型をした、花火と同じクラスの友人の、_闇桜がそこに立ち尽くしてた。

「わ、私にもわからん!とりあえず逃げるぞ!」

花火は闇桜の手を引っ張ると、避難場所である国はずれの森まで走り出した。


*


「お父さん!ねぇお父さん!今助けるから、ねぇ!返事してよ…っ」

爆発に巻き込まれそうになった私を庇ったお父さんが、代わりに巻き込まれてしまった。意識を無くしたお父さんを必死に回復魔法で治療する。死んで欲しくない、返事をして欲しい。そんな思いで叫んだ。

「…らい…あ…?」

「お父さん!?」

「もう父さんは死ぬのか…」

「そんな事ない!私が助ける!」

朦朧とした意識の中、頼りない事を言うお父さんに、助けれる根拠も無いけど「助ける」叫んだ。いや、助けないといけない。するとお父さんは泣いている私に気づいたのか、力の入らない手を上げ、優しく私を撫でた。

「いいんだよ、別に…お前のために死なせてくれ」

「な、んで…!」

「お前には色々辛い思いをさせちまったからな…たまにはかっこいい姿見せたいのさ、」


「その魔法は本当に困っている人に使ってやれ、父さんとの約束だぞ」


残された体力で不器用に笑うお父さんは本当に頼りなかった。それっきり声が聞こえ無くなったお父さんは、いつの間にか冷たくなっていた。

「…っ、お父さんの敵、必ず取るから…!」

そう心に決めた時、

今までよりも大きく、爆発が起きた。

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