第30話 夜襲 【1/6】
深夜にカナリアは目覚めた。
それは《
もっと直接的な理由によってカナリアは起こされていた。
「ここに、性悪な魔法使いのカナリアと言う小娘が居るだろう!! 出てこい!!!」
怒鳴りつけるような男の大声はカナリアの部屋まで届いていた。
魔法で探知するまでも無く、声の出所は館の外からだとわかる。
「貴様が此処に居着いているという話は聞いているぞ!! 早く門の外まで出てこい!!」
挙句に門の外に居る事まであけすけに伝えるその声に対して、カナリアは呆れが先に来そうになる。
だが、その瞬間に別の所で反応する《
呆けそうになった気持ちは吹き飛び、カナリアの意識が一気に臨戦態勢に変わる。
表立って陽動しておいて裏から
ううん、それだと単純すぎる。
一瞬にして纏まったカナリアの思考は、そのままの勢いで《
《
キーロプとクレアの反応は自室から動いていない。
門の外から叫んだ声の主も言った通りの位置に居る。
これで三つ。四つ目は《
五つ目の反応は、ちょうどキーロプのいる部屋の真上の部屋に入った所だった。
この館はフンボルト家の最大の私邸であり、階数も三階まである。
キーロプやカナリアの居る部屋は真ん中の階に位置していた。
本来は、キーロプの部屋の上下には護衛役を置く事で守りを強固にする予定であった。
だが、使用人や護衛の居ない今は、それらの部屋は空き部屋になってしまっている。
そして、そこはキーロプを暗殺しようとする者からすると、絶好の仕掛け場所であった。
想定よりも早く敵が侵入してきた事にカナリアの表情は深くなる。下手な陽動と囮の仕掛けが無ければ、この敵を見逃していたかもしれなかったからだ。
階は違えども、この敵とキーロプの物理的な距離はかなり近かった。
一言に暗殺といっても、それは直接的に刃物等で殺す事だけがそれではない。
真上を取っていると言う事は、床をも溶かす溶液を使うなり、壁や床を浸透する毒を撒くなり色々な手段が使えるのだ。
そんな回りくどい事をせずとも、単純に床をぶち破って上から瓦礫と一緒に殴りこむ事も、守りの硬い入口から正直に侵入するよりは効率的であろう。
実はこの場所はそれだけではなかった。
この暗殺者にとっては、ここに来るまでに、館の内外に数々設置されていた、《
真っ当に仕掛けているとはいえ、あれだけの《
今もこの敵は警戒を怠っていないだろう。
カナリアの使った《
その動きから、カナリアはもう一つの事も理解する。
カナリアが罠を張っていた事に、この暗殺者は気付いていない。
今居る位置は、カナリアにとって最初から強く警戒をしていた位置だったと言う事を。
カナリアは《
それの一つが、今五つ目の反応がある場所であった。
無能ならば、もう一人のマヌケな侵入者の様に《
相手が有能ならば、罠を避けていった結果、本人の知らぬ間に意図的に設けられた空白地帯に行くようにカナリアは結界を設けていたのだった。
カナリアは自身の感知魔法の結果から、今回の襲撃は三人と判断し、それらを二重の囮を使った暗殺と推定する。
大声を出しているのは単に囮で、《
だが、それも囮で、本当の本命はカナリアが感知魔法で発見した方だという二重作戦。
きっと相手の強さも、後から見つけた順番通りだろう。
【キーロプの上の部屋に居るの、ちょっと強そうだから先に始末するね】
無言のまま、カナリアはシャハボには手触りのみで対応を伝える。その後で彼女は、おもむろに虚空に向けていつものナイフを突き出した。
魔道具であるナイフから、暗殺者の居るおおよその位置へ《
床や壁に阻まれ、目で直接的に見えていなくても、元々アタリをつけていた場所への発動は、カナリアの力量ならばそう難しくはない。
続けてシャハボが《
感知魔法に感づいたのか、暗殺者は防御の姿勢を取ろうとしたが、その時には既に遅かった。
《
無言のまま、即座にカナリアの魔法が発動し、事前に《
《
意図通りに出来た水を、カナリアは少しの間維持し続ける。
ただそれだの事で、カナリアが一番強いだろうと判断していた暗殺者は急激に悶えた後、動きを止めた。
『やれたか?』
小声でシャハボが声を出す。
カナリアが行った事は、ある指定した場所に少量の水を作り出す。ただそれだけの事だった。
シャハボの《
コップ一杯の水を危険だと思う人間は、普通居ない。
危険感知などをすり抜けるこの攻撃は、暗殺者を陸に居ながら短時間で溺死させるという結果を生み出していた。
それは、傍から見ればどちらが本当の暗殺者なのかわからないような手管である。
顔色一つ変えずに、カナリアは、もう一度 《
対象の反応が無い事を確認した後で、シャハボを触りながら彼女は言葉を伝えた。
【うん。静かになったよ】
感情の入る余地のない単純な事実のみを伝えたあと、カナリアは静かにキーロプの部屋へ繋がる扉へと歩み寄る。
【これからだけれど、まずは隣の部屋に居るキーロプを確保して、それからもう一人の侵入者の対処しようと思う】
『わかった。気は抜くなよ』
そのシャハボの声は、カナリアにだけ聞こえるぐらいの小さなものであった。
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