おいしいおにく

冬野柊

「これでひとつになれるかなぁ」

咲のハンバーグを食べるのも、もう何回目になるのだろうか、今では想像をしては吐いていた頃が懐かしいくらいだ。


「ねぇちーちゃん、おいしい? 」

咲はいつも胸焼けするくらい甘ったるい声で私に問いかけてくる。

美味しいよ、といつも通り答えれば、良かったと花が綻ぶような顔で笑う、これもいつも通りの事だ。

この時の咲はとても可愛らしくって、あの表情を見るたびに酷く愛おしくなるのは咲には内緒である。


咲は不死身だ、私の目の前で轢かれて、ぐちゃぐちゃの原形を留めていない肉塊になったのに、気がつくと元通りのいつもの可愛らしい咲に戻っていた。

幻覚ではないかと自分を疑ったが、血の海と肉塊達の上で笑いながら手を伸ばしてきた咲の体温がこれは現実だと物語っていた。


その数日後だっただろうか、咲が私を監禁したのは。

私の手足を不器用に縛り付けようとしながら、私が死んでしまうことを恐れて泣きじゃくる咲は憐れで、惨めで、とてつもなく愛らしかった。

思えば咲が、ひとつになりたいと口癖のように言い出したのもこの頃からだっただろうか。

なんでも、私がこのまま死んでしまうくらいなら、咲と一つになって、ずっと一緒に生きていてほしい、ということらしい。

咲が死なないからと言って、咲の肉を食べた私も死ななくなるなどという確証は無いだろう、けれども咲は昔どこかで見かけたという人は数年で身体中の細胞が全て入れ替わる話を信じ込み、私に咲を食べさせたらきっと私も不死身になると盲信し、そのおかげで私は毎日、咲の肉を食べなくてはならないようになってしまった。


咲のハンバーグを食べ終わり、ご馳走さまと言うと咲は咲の肉がつまった私の腹を撫で、笑いながらこう言った。

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おいしいおにく 冬野柊 @FUYONOHIRAGI

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