第3話 クラスメイト!卑怯者!
「どうして、学校でゲームをしてはいけないの?」
加藤ひかりは不機嫌そうな顔で文句を垂れ流す。
その様子から察するにまた没収されたのだろう。
「そりゃ、勉強に関係ないからだろ」
「けれど別に授業中にやってるわけじゃないわ、課題だってきちんと終わらせた後にやってるもの」
「うーん、友達がいるのに一人で遊べるものは良くないとか」
「友達なんかいないわ」
「嘘つけ、ライアー。いつも誰かしらに囲まれてたじゃないか」
「あれはクラスメイトよ」
「クラスメイトは友達だろ?」
加藤ひかりの顔が引きつる。
「何だよその顔!!クラスメイトはクラスのメイトだろ?だからクラスのmate、友達ってことなんじゃないのか」
「!!」
愕然とした顔をする。
俺は友達じゃなかったのか。
「顔!!」
「あぁ、ごめんなさい。クラスメイト……。恐ろしい言葉だわ。知らないうちにクラスの人間全員を友達にしてしまっていた……」
そこまで真剣にならなくていいような気もするけど。
「じゃあなんだ、とうひのなかではクラスのみんなは友達じゃあないのか?」
「ええ、もいろん」
「……噛んだ」
「私、人の揚げ足を取る人って嫌いなのよね」
「悪かったよ。それならとうひの思う友達って誰だよ」
「だからいないって言ってるでしょう」
「定義とか」
「定義……。そうね、休日に遊びにいくとか」
意外に普通だな。
「あとはそうね、きちんと友達になってくださいって言ってくれる人が理想ね」
「えっ!?」
「何よ」
「いや、友達って気がついたらなってるもんなんじゃないのか?」
「でた。気付いたら友達理論。そんなわけあるはずないでしょう」
「みんなそんなもんだろ。班一緒になったり、移動とか一緒にして、多く話すようになったら友達」
「それはクラスメイトでしょう」
「だから友達」
「はっ!……卑怯者!」
そんなこと言われても。
「じゃあ、こうしましょう。関係性に段階を作るわ。第一級が友達、第二級がクラスメイト、第三級が知り合いよ」
「まぁ、いいけど」
「とにかく、人との関係を構築するのにどうして何も言ってこないかが不思議だわ。結婚するときも離婚するときも書類が必要なのに!書類が必要とまでは言わないけれど言葉くらいは言って欲しいわ」
「いや、結婚は行き過ぎじゃないか?例えば先輩と後輩みたいな、上下関係だってなんとなく決まってるだろ?」
「上下関係は分かりやすいわ。だってどこかのコミュニティに属したら発生するじゃない。けれど友達は違うわ。クラスの一員だからといって自然に発生するわけではないでしょう。もし仮にそうだったらいじめなんて、この世から消えてるわ」
「まぁ、確かに。けどとうひが友達と思っていないだけで相手は友達と思ってるかも知れないぞ?」
「……それは、そうかもしれないけど」
「ほらいつもとうひの周りにいた子たちだって……」
「それはないわ!」
「なんで」
「あの子たちには悪意があったもの。それくらい分かるわ」
俺が学校を休んでいた間に、加藤ひかりは色々あったのだろう。昨日言っていた暴力事件が関係しているのかもしれない。色々が何であったのか知りたいけれど、加藤ひかりの表情からして聞いてほしくないものだということは分かるから黙っていた。
「さっき言ったこと、訂正するわ。仮にクラス全員が友達だったとしてもいじめはあるわ。そうよね、よく考えたら友達の輪の中から発生することの方が多いんだから」
「それは確かにそうかもな」
しかも友達同士のいじめの方がよほどたちが悪いだろう。友達という関係性を悪用するのだから。
「なんだか、嫌な気分になったわ。やっぱり友達なんていらないわね」
「それは極論だろ。いい奴だっていっぱいいる」
「仮にいたとしてもその人は私と友達になりたくなんてないでしょう。私だったら嫌だわ」
……俺はさっきまで加藤ひかりのことを友達だと思ってたよ!!殺せ!恥ずかしい!
「まぁ、友達の定義が明確になったら教えてくれよ」
「えぇ、何事も定義を明確にすることは良いことだわ」
加藤ひかりは理系なのか?
「ところで、私、今日はもう帰ろうと思うのだけれど」
「は!?早くないか。まだお昼にもなってないぞ」
「今日は早退よ。私はあなたと違って出席日数に余裕があるの」
「ぐぬー。卑怯者!」
「なんとでも言うがいいわ。じゃあゲーム機を返してもらいに行ってくるわ」
やっぱり没収されていた。
「お前、家でもゲームしてるのか?」
「えぇ、一日中」
「それだよ!」
「はあ?」
「ゲームを、学校でしてはいけない理由!ゲームから離れる時間を作るためだ!」
「!……反論できないわ」
加藤ひかりはそういって悔しそうに帰っていった。
ひかりと夏休み まさとし @hanada-masatoshi
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