第10話 完全治癒術と特定者

『全然馴染めてないんだよなぁ。』

少し目が覚めた。が、そこは現実ではなかった。水溜りが広まる紺碧の空を持った空間。

「何の用だよ?」

『それは君が分かっているだろ?』

『葛藤があるんだろ?僕を受け入れるかどうかの事で。』

憐みの眼で見てくる。

「お前は力が有ったんだろ?ならな───」

『ないから君に憑依したんだろ?』

ーーん?

『僕は1人で闘える程の筋力や運動神経を持ってはいない。代わりに空想話に齧り付いていたよ。』

『実は大して秀才でもないんだよ。ただ妄想をして、気分でズルをする。そんな存在だったんだよ。分かってくれるかい?』

少々過信し過ぎていたのかも知れない。僕は大した事はなく、俺と混じり合った時にだけ強くなるみたいだ。

『あと、今回の怪我で暫くの間は制限時間付きの登場になるからお気を付けて。』

『これでE県の乱闘に受けて立つのは無理難題かも知れないけど、使いこなしてくれれば充分だから。』

いきなりすぎて理解に欠けたが、何となくやるべき事は分かってきた。

それは、誰かを師匠として鍛練を重ねる事だ。

自分なりのやり方では結局同じ道しか通れない。だから、誰か経験を積んでいる方が居てその人から学べば、普段とは違ったムーヴを成せる。

『考えが少し、纏まったようだね。それじゃ。僕を有効活用できるように頑張ってね』

───────────────────


目覚めた。病室か?起き上がって正面を見渡すと、あのチンピラのリーダーがベット前に居た。

「なァ。何であんな事した?」

花瓶に花を添えながら言う。

「無謀だって分かってながら態々何故俺を救ってくれたんだ?」

「僕は救えてない」

「…ッ」

そう言った瞬間、沈黙した。全滅させる事が出来ずに銃弾一発で散った屑だと言う事実がある以上、英雄でも希望でも救世主でもない。

「お前は俺らの組織の事を知ってるか?」

「あのイヌと関係あるか?」

僕がラッキーで勝てたイヌと関係は深そうだから訊いておいた。

「んや、俺が話してェのはそこじゃねェんだよ。」

あ、違った。僕は少し黙って話を聞くことにした。

「確かにアイツを調教したのは組織だが、調教するだけが仕事の組織じゃねんだよ。」

「ストレス発散用の奴隷って聞いたことあるか?」

僕は少し戦慄した。未だにそのような外道のシステムがある事実に。

「中坊から高校生くらいの下っ端が学校の静かな奴を選別して虐め、嬲り尽くしたりして、精神を砕いたら後は客に出す。まだ精神が持つなら組織に持っていって拷問を掛けてイヌにする。俺は精神的にガタが来ちまって、イヌにされそうになっちまったけどあんたが助けてくれたお陰で解雇で済んだ。だけど、すぐに奴らの手先が来て俺を暗殺しちまうかも知れねぇ、だから逃───────」

ドパンッ...!

額に弾丸がカスった。今のは何処から来た?その組織とやらの牽制か?いや、確実に仕留めないと警戒されるのは誰でも掌握できる筈。なら、何が目的なんだ?

「まずい、狙われちまった!ってか野郎何で外したんだ?」

奇遇な事に、チンピラ番長も同じことを考えてたらしい。

「何かあったんですか?」

ナースが来た。ってちょっと待てぇ!

「今すぐにこの部屋から出てくださ───」

ドパァァアン...

(完全に判断が遅れた…嘘だよな?)

後ろに振り返ると、そこには頭のないナースが横たわっていた。

「ぁ 」

そこからは発狂して、発狂して。

意識を失った。

1時間後…

『もしもし?蓮くん聞いてる?さっきのナースさんが撃たれた件だけど、アレはAIだから。安心してね。』

医者の声が聞こえた。

「医者か…何の用ですか?」

用件だけ聞いて寝よう。

『AIの事を容易く言ってしまって悪かったけど…あれは向こうの攻撃を予測してやった事だよ?元々私を殺そうとしていたみたいだけど。勘違いしてくれて良かったよ。あ、そうだ。自称君を保護しに来た人からの電話がさっきから鬱陶しいんだけど、対応してくれない?』

AIだからって問題じゃないんだよなぁ。まぁ、医者が亡くなるよりかは良い結果かもしれない。

「はい。対応します。」

僕は頼みを受けて、電話する事にした。

『よお!俺だよ俺。招待状渡した奴だ。俺は俺の感覚に干渉した奴の個人情報を抜き取る能力を持ってる。ここまで言えばわかるか?』

ーーいや、用件は!?

「用件はなんですか?」

『あぁ伝らねぇよな。よし!俺の言いてぇ事を知りたいのだな?』

「はい」

『んじゃ、ザッと言うぜ?俺はお前に賭けてんだ。闘技協会内部の腐敗を食い止めるために、俺は…長くなるから置いとくぜ。要はお前を使って協会をある組織からの支配から独立させたい訳だ。詳しいことは退院後話す。事前連絡しねぇとお前に殴られると思ったから今回掛けた。以上だ。』

「はい」

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