第9話 「狂犬」小田正雄

チンピラ共は片付いた。あとはリンチの主犯格3人と首輪で繋がれている男だけだ。

「貪り尽くして来い!狂犬!」

男は繋がれていた男を首輪から解き放った。

「ガルルル!」

人間としての人格は消失しているのかもしれない。体毛は濃いが、顔は整っている。犬とはまた違うテイストに仕上げられた奴隷のような者を感じた。過去にそういったビジネスがあったが、今もあるのかと言われると答えにくいものだ。まぁこれは置いといて、彼の鋭い爪が僕の眼前にもう来ていた。僕は後ろに強く反る。上で空振り、制御を失った「狂犬」は後ろに体を打ち付ける。しかしそれは束の間で、すぐに態勢を立て直し鋭い爪で僕を斬り裂こうとしてくる。

(このままではジリ貧確定だなぁ。何か解決策は…?そうだ!)

僕は少し見渡し、公衆トイレを再発見した。

するとそこへと駆け込み、一瞬の間でホースと蛇口を繋いだ。

(中学生とかの虐めの名物みたいだが、体毛が濃い相手にはこれが効果的なんだよなぁ)

水が絡み付いて不快感を与えると共に、タオルの様な物で拭かなければ体が冷えるといった事象を狙う。

「近づくなよ。」

放水を開始した。

「ァ゛ア゛ン゛ォ゛…ィ゛ォ゛」

(ん?思った以上の効果だな)

奇跡だ。彼は恐らく水が苦手なのだろう。(しかし何故あの様に過剰に反応するのか。まさか水アレルギーなのか?)

僕は流石に拙いと思い、放水をストップした。

(僕はサイコパスではないし、人を殺したくもないからね。)

しかし、この絶好のチャンスを逃せば次はないだろう。生物という物は学習をするのだ。トラウマは二度と味わいたくないと思うのが全生物共通の心理だからだ。恐らくホースを引きちぎるなり、蛇口を破壊するなり、トイレをなんらかの手法を用いて粉微塵にするなりしてくるだろう。昔の精度の悪い洗脳を施された奴らはその様な感じのムーヴを基本として動く。見た感じ彼は完全支配の術を施されているわけではない。彼のもとの意識と洗脳されている意識が混在している状態である。

まぁ最終的に何が言いたいかというと今がチャンスだから首蹴って気絶させるという事。

「可哀想だけど、これが現実だよ?」

急接近して首を強く蹴った。安定して気絶した。


「うちの可愛いイヌをよくもやってくれたな?」

犬の発音が少し違った。やはり何か意味合いはあるのだろう。

「だからどうした?その程度でキレる輩ならそんじゃそこらの一般チンピラ男性と変わりないぞ?」

「ペットかなんかと勘違いされちゃ困るが、アレは俺らが丹精込めて調教して、仕上げたイヌ奴隷なんだよ。折角残業して分からせたのによぉ…」

なんて事を…なんて思っても口には出せなかった。さっきから妙な威圧を感じて、脚が動かないのだ。いくら意思が有っても全くと言って良いほど動かない。

「だがな、お前は俺の部下とイヌをほぼ瞬殺した。おめでとう、その点では褒めるに値する。」

ーー何が言いたい?

「お祝いとしては難だが、受け取ってくれ。俺からの死のプレゼントだ。」

突然銃口が向けられ、淡い光を放った。

鼓膜が裂けそうな轟音が鳴り響き、僕は意識を失った。

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