男か女か分からない人の話

濁面イギョウ

あるサークルの日常

 うちのサークルは何かを創ることも無ければ何かを実現することもない、ただメンバーの都合の良い日に集まって、遊びに行ったりカラオケ行ったり時にはピクニックしたりする、ただそれだけ。それがうちのサークル。ウェイほど陽キャでなければ、いわゆるオタクのように何かに熱をあげることもない。なんとなくで集まって、どことなく楽しんで、それで終わり。これで大学公認だから不思議だ。表向きにはドライブサークル、だとか。たしかにたまに誰かの車で遠出することもあるけども。総勢8人、今年入ったのは私含めて2人。まさしく弱小、だがこの細々とした雰囲気に惹かれた。

 問題は私の他の、もう1人の1年生だ。問題、と言うのはおかしいかもしれないけど。何せその人は別に悪いことなんてしていないのだから。

 肩まである黒髪、それが頭のフォルムに合わせておとなしく流れている。ワンレンで、前髪を右寄りに分けて、左目が少し隠れている。ぱっちりした二重にアイラインは濃く、眉毛は薄く、肌はいつも病的に白い。鼻は高くなく、幼さを感じさせる。細い顎に唇は薄くて、今日はほんの少し薔薇色に近い赤のリップをしていた。そしていつも黒基調の服装で、今日は黒い襟と黒いフリルの付いた白シャツ。そうしてその人は、車の窓の外を眺めていた。

 彼、もしくは彼女は────佐々山薫。そう、何せこんな格好だから、男性なのか女性なのか分からないのだ。訊いてみようにも、そもそもそういった風貌だから、話しかけづらい。安物のフツーの服の顔の薄い他のメンバーと違って、場にいるだけで圧がある。言ってしまえば浮いていた。だが性格がキツいのかと言われたらそうではなく、挨拶もきちんとするし、口調も柔らかい。でもチキンな我々他メンバーは、見た目の第一印象のまま、話しかけにくさが続いていた。

「よぉーし、到着」

 運転手を務めたサークルのリーダーが車を停めて、そう言った。等サークルの本日の活動は、大学から少し離れた、自転車で行くには遠い、水族館へと足を運ぶことだった。4年の先輩がいなくて、今日のメンバーは計5人。前方の2人の3年生と、後部座席にみっちり詰まっていた1年と2年が降りていく。行く道の会話はそう多くなかった。あっても広がりのない、テンプレートな近況の質問だけだった。だがそれこそが許される空気感だった。


 私達は水族館の入り口へと歩いていく。リーダーが前で伸びをしていた。私の横で歩く佐々山さんは、もう一方の隣の男の先輩と同じくらいの高さに頭があった。佐々山さんが履いたヒールのあるブーツの足音がコツコツ、と鳴る。あれを脱いだら私より少し高いぐらいだろうか? 佐々山さんの身長は。

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男か女か分からない人の話 濁面イギョウ @nigoritsura

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