大好きだよ 後編
僕が、再び僕を自覚するのに、どれだけの時間が掛かったのかはわからない。
体感出来ない時間を計る術なんてないんだから。
でも、ようやく、零の意識の海から、僕は再び僕を自覚した。
意識が再び一本の糸になった瞬間、朝を告げるような光が零だった水面に広がって――。
僕は僕の目の感覚を取り戻した。
瞼はまだ開けられないから、完全に光を感知できていないけど、さっきまでとは明らかに感覚が違う。
金縛りみたいに上手く動かせないけど、手があるという感覚が戻ってくる。
足の感覚も、閉じた瞼の向こうにある世界の存在も、その存在と気配を強く感じる。
息を吸う。
肺を満たす空気を感じる。
鼓動が少し早くなる。
唇も舌も動く。
しばらくぶりの口の感覚は、少しざらついてべたついていて、割と最悪だ。
本来はもっと無意識に出来るはずのことに悪戦苦闘する僕の額に、少しひんやりとした柔らかななにかが触れた。
ああ、この手の気配は、アイツだな。
重い瞼をゆっくりと開けていく。
微かな隙間から見えた、殺風景過ぎるあの部屋の白い天井が目を焼く。
指先が少し動くけど、まだ起き上がれはしない。
近くにある、やさしくて温かい気配をはっきりと感じる。
なにもかもが、鈍くて、まどろっこしくて、もどかしい……。
だから僕は、再びこの世界に受けた生の始まりに、想いの丈の全てを叫んだ。
「紗弥香、大好きだよ!」
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