第2話 音羽の森に母といったときの出来事

母は旧軽井沢には一切足を向けようともしなかったのだが、アウトレットモールの貸衣装屋のひどさに、期待できない音羽の森にでも、行ってみますか、といいだしたのは、2週間を超える滞在期間の中、同じルートを散策することに飽きてしまったからである。


その前に、母がなぜ軽井沢の別荘のあるビックウィークの株主になり、あちこち新築リゾートホテルができると初日に宿泊しに行くに至ったのか、簡単に述べたい。


ブランド品をみせびらかしにきたオードリーヘップバーンの真似事をしていた女性のとき、買い物しようと連れ出されたのとは別件で、昔知り合ったひとに軽井沢に別荘があるからとまりにこい、といわれいったことに起因する。


ひとりは高卒のまま建築技術という雑誌に就職するとわざわざ報告にきた軽井沢に親がいるという男性。

尋ねていくと傷んでいる別荘...。


次は郵便局員をしていてバスケがうまいだの自慢しにきた地元のひとの軽井沢の別荘...。


普段すむひとがいないため、どちらも、みなでいくと

臭いのきつい布団だらけ...。


もう、誘われても軽井沢はいきたくなくなった、と、ふたつの別荘の場所と話をするや否や母は、それらは別荘とはいいません。


別荘というのは日頃から必ずだれかがすみ、住むことで家が傷まないようにしていること、誰かに住まわせ、そのひとが清掃をおこたらないことで良質な住まいが維持されることは、私たちの持ち家の数々をみればわかるように、貸しておくこと、と、同時に、貸す相手をよく見抜き、泊まりたがるひとの質をみきわめて泊めることをしないと、賃貸という物件同様価値はすぐ落ちるのです、いいですか、本当の別荘にとまりにいきますよ、と、いった経緯から母は東急ビッグウィークを買い占めたが、落ち目をみきわめ、さっと手放し現金に変え、違うものに投資をしたことをさきに記したうえで音羽の話にすすんでみたい。


さて、葉山の音羽がみるも無残でみるにたえず、モナコに全く似ていないことはいまはなきブログにも書きましたが、いったことのないモナコや様々なことを非常によく知りえていた母をみつめていた私は、音羽にあるいていくこう、と母と出かけるとき、だいだい色のタウンアンドカントリーのジャージ、男物をきてでかけました。

散々新聞にタウンアンドカントリーがでていましたが、私のふたつあるタウンアンドカントリーのジャージはどこにもうっていません。


さて、音羽にむかう道すがら、様々な露呈店が並んでいたのでひとつひとつのぞいていると、母はブランド品ではないけど、なんか面白いものがありますか?と私に尋ねてきた。


面白いものがあるか、いまみているところ。


あったら買うけど、まぁ、渋谷だのあちこちおのぼりさん目当てで店をだしてる原宿だのにあるものといささかもかわりのない、レジも個人であやしいものが多いよ、だって、ほとんどが、洗ったら色移りする染め方だよ?

ほら、ここみて。

デニムと同じ作り方なうえ、デニムより色落ちして色移りしやすいのに洗濯表示がないでしょ? Made in Japan とかけばいいと思っているだけで、素材がどこの国のものか、染料をどこでつくったかかいてないし、ミシンおいてあって、仕入れたものが不良品だとてごころくわえ、買ってもらえたら御の字のやり口。


返品きかない、祭の露店みたいなヤクザの店だよ、というと、母は、目をほそめ、

あなたはお父さんに、屋台のものをかって食べるとお尻が痒くなるから、買ってもらえなかった意味がわかってきたようね、としばし立ち止まり、おもしろい、といいだした。


ここは祭りの屋台のようなてきや街じゃないのにヤクザのような露店があり旧軽井沢といい、ケーキだのあちこち眉唾なみせが山ほどあるねぇ、まぁ、長くはもたない自転車操業のみせがあちこち居場所かえてつぶれては引っ越し、をくりかえしている過ちだらけの店なのでしょう、さて、なにか買いたいものはある?と聞かれたが、ない、としかいえなかった私。


足を休ませたくてもあやしい喫茶店しかない...。


だんだん坊ちゃんでもだんだん愛媛でもなく、だんだんアウトレットモールのほうがどれだけまともかよくわかりだしてきたころ、

また事件が起きた...。


大量の名だたる観光バスのバスガイドがバスからおりてきてバスからたくさんのひとがおりてきたのだ...。


バスガイドのおばさん、お姉さんたちは、

はい!こちらが軽井沢、有名な軽井沢です!アウトレットにない、名作の数々、お買い物時間2時間です、というやいなや、

どかどかとおりてくるおのぼりさん...。


母と私は腰が引け、泥棒と目があったホームアローンの少年のように、なにもみなかったふりをして音羽の森ホテルにむかって歩き続け、トイレだけ借りるふりをして、タクシーで別荘に帰ることを目と目で合図し音羽の森ホテルにつくと、時すでに遅し...。


バスの観光客でトイレが埋まっている...。


いたしかたなく私と母は万平ホテルの喫茶室にはいりメニューをみて、目を疑った...。


ジョンレノンが愛飲していたミルクティーの文言...。


?????


母は眼鏡を鞄からとりだし、何度もメニューをみつめ、なにこれ、え?音楽の友社に長くいた時でも、クラシックをいちから読み漁り全てはじからはじまで正しきルートで学んだ時でさえ聞いたことがないジョンレノンと

ミルクティー...。


母は指をならしボーイをよぶと、オーナーと話がしたい、と伝えた。


長くなるな、と察した私だったが、一度着座してしまったうえ、母の口からマシンガンより炸裂するであろう文言はすでに脳裏の中で

準備をしてあったため、顔色をかえずだまって黙々と水を飲み干し、おかわりください、とただひたすら、氷のかたちもとけかけでだしてくるくらい質のわるい様になっていない水だけをのみながら、長野のわりに、水さえも別荘よりまずい、と、思いながらオーナーがでてくるのを待つ母とオーナーとの話が終わるのを待つしかなかった。


手をすりながらオーナーがでてくるや否や、

母の弾丸は炸裂した...。


観光で稼ぎたいのはわかりますが、事実にないドリンクメニューでひとをよびこむ詐欺師ですか?万平さんやら旧軽井沢の古くなりひとが呼べなくなったまわりにある音羽グループさんは。

なんなら鎌倉と軽井沢だけでなく全てにご連絡する必要がありますよ?というと、オーナーは、一瞬なんのことかわからないふりをしたが、母は目を逸さなかった。


オーナーは、はい、私たちは客がこなくなり

このようなメニューで人を釣るようなことをしているところはございますが、あとで別のところをご案内いたしますので、ひとつ飲んでみていただけませんか、ご納得いただけなくても構いません、お客様がおっしゃりたいこと、すでに、はとバスだけでなくこのような観光バスだらけになっていることから隠すすべはございません、といった。


母はしばし考えてから、ジョンレノンのミルクティーとストレートコーヒーをください、一つずつ、とつたえ、

オーナーはジョンレノンのミルクティーは

ホットしかありません、ストレートコーヒーもホットでよろしいですか?といった。


私も母もアイスコーヒー!そうさけび、

でてきたホットミルクティーをひとくちずつ口にしたあと、カップをそっとおき、

無言で目と目で のめたものではない、

家でいれたほうがおいしい、イギリスなみにまずい紅茶...と目で話すと


ふたつだしてもらったストローでアイスコーヒーをのみ、こっちは飲めるとわかるやいなや

母はパチンと指をならし、アイスコーヒーもひとつ、と、いい、まぁ、アイスコーヒーは昔の資生堂パーラーのほうがまともだけど、コーヒーの入れ方くらいまともにできなきゃ、しけりやすい葉っぱものの紅茶はだめでもホテルとしていただけないわ、といわんばかりの表情をしながら鞄から英文新聞をとりだししばし読み始めた...。


お母さん、そんなものはこのまわりの売店でうられていないし別荘のフロントにもなかったよ?と聞くと、ですから私が株主でオーナーの別荘なわけですから支配人に読みたい英文新聞をこんなにばかみたいに長い滞在中、取り寄せつづけてもらうのは不可能ではないですよ?あなたも読む?と1日古い新聞を私に渡してくれた。


なんのために持ち歩いているの?

と聞くと、すわるとこも期待できない音羽にきたんですよ? 

期待できたい旧軽井沢にきたんですよ?


座るところも期待できないところで、お尻を汚さないよう、いざとなったら地面に新聞をしいてすわるためですよ、といい、いくつかのコラムをさっとよみ、コーヒーをのみ、

足を休ませおわると、あなたはもう、十分休めたかしら、という。


母とオーナーとのどんぱちにそなえ、水をたらふく飲んでいた私のおなかはタポタポしていたから、はい、いつでも、というと、

母は五千円札、新渡戸稲造をテーブルの会計の茶色い冊子にはさみ、

帰るわよ、と私にいったので、席をたって2人でホテルを出ようとすると、支配人があわててでてきて、あちらのチャペルご覧になりませんか?衣装もございます、お嬢様にひとつみていただいて...といわれるやいなや、母はぱっと手をあげ、支配人の口を塞ぐかのように、なにもいうなという合図をすると支配人は黙っておじきをし、お釣りは?と母に尋ねた。


結構です、と母は告げ、外にでると音羽のチャペルから鐘が鳴り響きだした...。


母はチャペルのあるところの芝をみつめながら、誰かこの子を貰ってください!と

いきなり叫び、え?なに?と私が母をみつめると、音羽は見る気もしない、おまえは、ジャージ、紅茶はのめない、コーヒーも避暑地といえない味、露店はヤクザ、観光客は品がない、なんかひとつくらい、はなやかなことはないかね、と、母のこころの声は、口から出る大声に変わり、大きなため息をつくなり、お釣りがいらないと支配人に伝えた結果が、チャペルの鐘の音。


音羽の音が鐘のおとなら、おまえの嫁いりを叫ぶくらいしかここではすることがないんだよ、と笑いながら誰かこのこをもらってください、とまた叫びだしたので、

負けずとわたしもわたしは貰い物ではありません、ひとにもらわれるものではありません、自分で相手は選びます、結婚なんてしてもしなくてもいいものです、お母さんをみていてしたいと思ったことはあまりありません、と

あっかんべーをするやいなや、まあ、男なんて

世界の半分だからね、世界の半分が女。


あわてて適齢期だから、だのひとめぼれだだの見合いだの焦って産み急ぐ時代ではないから、あなたは時代にあった生き方をしなさい、いや、時代に合わせる必要もない、自分が納得できるようにいきればいいよ、ただ、戸籍を汚してはいけないよ、だから、結婚には慎重になるくらいがちょうどいい、離婚だけはだめ。

日本女性として、ひととして、信頼にかかわる問題だから、と私にいった。


私はこの点については全くもって同感であり戸籍を平気で汚せるひとを信じることはいまもできない。


次にタクシーを用意していた支配人のもとにあったタクシーをみて、母は首を振り、歩いてかえりましょ、と私と母は歩いて別荘まで帰った。


なぜなら、その鐘の音のあと、観光バスのおばさんたちが、まぁ!チャペルよ!

昔あんなとこでおじいさんとあんなことしたのよ、と大声で話し出したうえ、そのタクシーはボロボロ...。


チャペルの鐘のねのあとでてきたカップルの品のなさをみて、かかわりあいたくない、と母は私ときびすをかえしたのでした。


20:47

加筆 訂正 いったんものかん

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こころでみつめる世界 See in the Mind Tomoka Kaneko「英語表記」 @writeEN

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