第2話 継ぎ歩(つぎふ)
――――
継ぎ歩(つぎふ)
歩の突き捨てか打ち捨てによって相手の歩を1つ前進させた後、さらに相手の歩の前に持ち駒の歩を打つこと。
相手の歩が上ずった状態となるため、戦いを仕掛けやすくなったり、相手の歩の裏を狙ったりすることができるようになる。
(引用:「将棋講座ドットコム」https://将棋講座.com/手筋/継ぎ歩.html)
――――
戦況は中盤。
両陣形の隙をお互いさぐりあっている。
自分が大将ならば、とてもしびれてしまうくらい楽しいだろう。
だが、私は歩。
本部からの指令を待ち、行動するしか術はない。
今日もまた、一度捕虜になり、反旗を翻すよう説得された。
休憩所でもある駒台はスペースが広くて意心地が良い。
かつての敵の大将の意のままに操られることを決めた。
熱戦を駒台にて待機する私。
今回は仲間の歩も一緒だ。
「今日は勝ちたいね」
仲間の歩がそう言った。
「そうだね。勝ちたいね。でも、できれば、安全なところに配置されたいね」
私は駒であるにも、戦士っぽくない弱気な発言をしてしまう。
できれば、捕虜になりたくない。
目まぐるしく大将が入れ替わってしまうと、それぞれに気を使ってしまう。
周りの駒たちの冷たい視線が突き刺さるのもいたたまれない。
本心を明かせば、裏切りたくないのだ。
その気持ちを察してくれたか、仲間の歩は、
「そうだね。安全が一番だ」
と言ってくれた。
さて、そんな話をしているうちに本部から指令が渡った。
まず、仲間からだ。
「お、どうやら出撃らしい。いってくるぜ」
「がんばってこい」
私は仲間に激励して、送り出す。
駒台から盤上がかすかに見える。
他の味方の駒の背中越しに仲間の配置先を見る。
な、なんと。
相手の歩兵の真ん前じゃないか。
仲間は置かれてすぐ怯えだす。
そりゃそうだ。
案の定、まもなく敵歩兵に捕まった。
何とも言えない気持ちを押し殺しつつ、手をぐっと握りしめる。
すぐにまた、指令がやってきた。
今度は私が出撃らしい。
駒台には私一人。
見送ってくれる駒は誰もいないが、頑張ってくるよと気合を入れる。
私が運ばれる。
運ばれた先は、なんと仲間を捕まえた歩兵のすぐ裏側だった。
(なるほど、仲間を使って敵歩を釣り上げたのか)
敵歩兵は動揺を隠せない。
彼は後ろには行けないのだ。
――孤立無援
いまの彼にふさわしい言葉。
同様に私の2路先には敵が多くいるものの、すぐに捕まることはなさそうだ。
敵陣が何やら騒がしい。
次の準備を進めていると、後ろから飛車将軍がやってきた。
もちろん、敵歩兵も捕まえた。
「よくがんばったね」
私は置かれただけなのに、褒めていただいた。
「恐縮でございます」
将軍にそう返事した。
「次の出撃はお前だと思うぞ。武器の準備もしっかりしておけ」
「わかりました」
と、これまた、本部にお借りしたエクスカリバーを腰につける。
指令が届く。
「歩、一歩前進。進んだ先で武器を抜くように」
「わかりました」
私は指示された通り、一歩前進する。
そして、エクスカリバーを抜く。
私は“と”になった。
たった一歩進むだけで金大佐のような力がみるみると溢れていく。
これが成り上がるというものか。
やっぱり、こいつはすげぇ。
テンションがすごくあがる。
そして、目の前には敵の角将軍と、金大佐がいた。
――あれ? これは前回と同じ場面?
「頑張れよ」と仲間の声を聞こえたような気がした。
角将軍と金大佐は怯え、2路先の銀少佐はニヤニヤとしていた。
私は歩ーー盤上に駆ける駒たちの心情ーー 水無月右京 @ukyominaduki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私は歩ーー盤上に駆ける駒たちの心情ーーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます