第37話 外見に惑わされてはいけない

 食事を終え夜の街を二人でそぞろ歩いた。ふと路地を覗くと、向こうに占いの館が見えた。


「占いの館がありますよ」

「懐かしい」


 もう占ってもらったのがずいぶん昔の事のような気がした。


「また行ってみない?」

「占ってもらうんですか?」

「まあ、いいから」


 私たちは、人気のない路地を歩き店の前に来た。自分の気持ちに迷っていたあの時と同じように、占いの館と書かれた明かりが灯り、小さなドアが見えた。そっとドアを押して中に入ると、占い師の女性が水晶玉の向こうからこちらを見ていた。その眼は以前よりも優しげに見えた。私は何かを占ってもらおうという気持ちはなかったが、通さんが一歩先を歩いて女性の前に行った。


「あら、今晩は。今日はお二人で」

「はい」

「今日は何を占いましょうか?」

「通りかかったらこの店が見えたんで来てしまいました。あの時悩んでいた人がこちらの人です。自分の気持ちに気付くことができ、お礼が言いたくて来ました」

「あら、ありがとう。うまくいってお礼を言っていただけると嬉しいわ」

「ついでと言っては何ですが、この先の運勢を占ってもらえませんか?」

「うまくいくかどうか、ということ?」

「それも含めて、色々」

「では、おふたりでお座りください」

「あなたも、自分に素直になってよろしかったわね」

「は、はい。占いのお陰で通さんとうまくいきました」

「では、目をつぶってください」


 私たちは目を閉じて女性の合図があるのを待った。


「はい、目を開けてください」


 私は、そうっと目を開けて女性の顔を見つめた。彼女は水晶玉を見て、語り始めた。


「今まで二人の間にかかっていた雲が晴れて、ようやく青空が広がっています。これからも二人の周りには、様々な雑音や暗いもやがかかってきます。しかしそれに惑わされてはいけません。それらの物は、みな本当の物を隠してしまう障害に他なりません。真実を見極めるためには自分の心の声に耳を傾けることです。外見に惑わされてはいけません。お互いの本当の心の声を聞くことこそが、二人で一緒にいられる秘訣です。めぐさん、通さんの素敵な外見に惑わされないで、心の声を聴いてください。通さん、めぐさんの心にいつも寄り添ってください。メグさんは意外と寂しがり屋。一人で仕事を頑張っていても、あなたがいると本当はとっても嬉しいのよ。占いはこれで終わりです」


「結局うまくいくのかどうかは……」

「お二人の心がけ次第ね、悪いけど。でも、決して運勢は悪くないわ」

「ありがとうございます」

「お代は?」

「三千円です」


 私たちは占いの館を後にした。ここへ来てよかった。最後の言葉は照れ臭かったが当たっていた。通さんがいてくれて、結構というかかなり心強かったのは本当だ。



 翌日はもっと早く起きることにした。起きて音を立てずリビングルームに行くと、通さんが眠っていた。その眠った顔は無防備だが素敵だった。


―――やった! 


 初めて朝通さんの寝顔を見ることができた。傍へ寄ってみると何とかっこいいのだろう。こんな素敵な彼を独り占めしているのだという優越感に浸りながら、私は彼が目を覚ますまでじっと顔を見ていた。でも外見に惑わされないで、心を見なきゃいけないのね。そう思いながら彼の髪をそっと触った。


 ありがとう、これからも一緒にいてね、と心の中で囁きながら。



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