特定ゲームの参加には事前の審査がいりません

ちびまるフォイ

特定班では見つけられない人

『次のお題のアカウントはこの人です』


ゲームマスターからお題のURLが送られた。

アクセスすると一般の主婦のSNSアカウント。


"特定ゲーム"では、各個人のアカウントの投稿や行動歴を見て住所を先に特定した人の勝ち。



「よし、はじめるか」


まずはSNSアカウントに投稿されている画像をざっと確認する。

画像は多くの情報を残しやすい。


「おっ、これは使えそうだな」


画像の1枚にスーパーで買った肉の画像があった。

画像の解像度を上げてラベルにかかれている識別番号を確認。


「この識別番号は……あっちの住所の販売エリアだな」


識別番号をもとにおおよその販売エリアを特定する。

次に、風景写真を見つけた。


『すっごくきれいな夕焼け!』


と投稿されている。

見るべきは夕焼けではなく目立つ建物。


「電波塔がここで、この金融の看板がここ。

 それで時間帯と影の位置から見て撮影場所は……ここか」


写真に含まれている目立つ建物の位置や角度から撮影ポイントを特定する。

先にエリアを限定していただけに見つけるのも早かった。


「ほかにヒントになりそうなものはないかなぁ」


特定対象のアカウントにはもうヒントになりそうなものは残っていない。

そこで、別のSNSから似たようなアカウントを探す。


ターゲットの別SNSアカウントはすぐに発見した。

夫らしき人のアカウントも発見したので特定の手をそちらに伸ばす。


『晴れていたので洗車しましたーー! 最高!』


別SNSにはピカピカに磨かれた車の写真が乗っていた。

洗車するということは持ち家で、車のボンネットの反射を確認する。


解像度を上げると反射して自宅が映っているのを確認した。

住所の特定はできた。


ここからはこの情報の信頼性を高める作業に映る。


SNSで所属しているコミュニティで地域が自分の特定住所と一致しているか。

子供の運動会の写真などから特定した学校が自分の特定住所県内か。


間違いなさそうであれば現地に向かう。


「ここだ……」


特定ターゲットの住所に到着。

誰もいないのを確認し、地面に自分のアカウント名が書かれたプレートを置いて写真を1枚。

自分が特定したのだという証拠にもなる。


写真をゲームマスターに報告と一緒に送付する。



『おめでとうございます! ゲームクリアです!』


>まじかよ。くそ早いな。

>住所特定できてたのに~~!くやしい!

>いま新幹線乗っちゃったよ


特定ゲームは終了。

1番以外はゲームの敗者となる。


『それではみなさん、すべての特定資料を廃棄してください』


ゲームマスターの指示にしたがって保存していた画像や

検索していた履歴をはじめ、特定に使ったあらゆるものを消す。


『私達はけして迷惑をかけずに特定を楽しむのみ、です。

 特定した情報はけして悪用しないでください。では次のゲームをお楽しみに』


特定ゲームは一定周期で実施される。

しかし、次の特定ゲームは臨時開催となった。


『みなさん、臨時の特定ゲーム開催です』


>臨時ってことは、特定情報を悪用した裏切り者が出たのか?


『前々回開催の特定ゲームにて特定された住所の男性宅へ

 窓ガラスが割られたり、毎晩騒音の被害が出ているようです。

 犯人のアカウントは特定済みです。共有します』


ゲームマスターから、かつて特定ゲーム参加者のアカウントが共有された。


『臨時特定ゲームでの特定対象は住所ではなく、個人です。

 裏切り者をどこまでも追い詰めて、必ず捕まえて下さい』


臨時の特定ゲームがはじまった。


元特定ゲーム参加者というだけあって、SNSの投稿を確認してもヒントは少ない。

そこで、アカウント名から別アカウントを探す。


「……くそ、こっちもか」


似たようなアカウント名は使われていない。

きっとSNSごとにバラバラなアカウント名にしているのだろう。


特定した別アカウント名を列挙していると、気になるものを見つけた。


>@harapon199


「はら……原って名字かな」


検索エンジンで「原」が含まれる名字を検索する。


検索上位には有名人がずらっと並ぶが、その67位に一般人ぽい「原田 和美」という名前を見つけた。


特定班だけに自分がどこまで特定されているか気になるだろう。

自分の実名を検索すると、一般の人の名前が検索順位が上がる場合がある。


『もしかすると、ターゲットの名前はこれかもしれません』


自分の特定状況を他の特定参加者へと共有する。


>住所特定できた

>卒アルとかありそう?

>同窓会から特定できないかな

>現地近いから行ってみる


並行して進められていた住所特定により場所を特定。

今回は住所を見つけて終了ではなく本人の顔をあばく必要がある。


卒業アルバムなどの露骨なものがあれば助かるもののそうそう見つからない。

顔バレしていなくても現地に行けば特定はできる。


近所の人に聞いたり、地元の同級生に聞いたりしていれば行動パターンは読めてくる。

特定するのも時間の問題だと思った。


>ダメだ。ぜんぜん見つからない

>張り込んでいるけど特定住所の表札ちがった

>引っ越したのかな?

>引っ越ししたっていう情報はないけど……


別に動いていた被害者側の見張り側からも犯人の姿は見つからなかったらしい。

あくまでもこちらは一般人なので、必要以上に接近すると不審者に思われてしまう。

悪ければ犯人とされることも。


99%特定できているのに、どうしても本人が見つからない。


>なんで見つからないんだよ! 透明人間じゃあるまいし!


「透明……人間」


特定参加者のひとりが毒づいた言葉にピンときた。

住所は本人の顔特定からは一旦離れて、地元の新聞や出来事をチェックする。

ついに本人の顔を特定することができた。


俺は自分ともうひとりを連れて、被害者の家へと向かった。


「あなたが原田和美さん、ですね」


『ど、どうして!? 私を特定できたの!?』


「探すのに苦労しましたよ。住所や出自まで特定しても、

 どうしてもあなた自身を見つけることができなかったもので」


『それでどうするつもり? その隣にいるのは警察かしら?

 でもおあにくさま。私は警察なんかでさばけるようなものじゃないわ』


「そうでしょうね。だから警察じゃありません。

 特定したターゲットに迷惑かけないルールに背いた罰を受けてもらいます」


『ま……まさか……』


ターゲットの青白い顔がますます青白くなってゆく。


『なによ!! 私はここに住む男に何度も殴られていたのよ!

 やっと引越し先の住所が特定できたんだから、仕返しするくらいーー』


俺が合図を送ると霊媒師は除霊を行った。

あたりからすべての痕跡が消えると、霊媒師はふうと息をついた。


「しかし驚きました。こんな除霊依頼ははじめてですよ。

 幽霊もネットやSNSするんですね……」

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