第9話☆お姉さん?

 昼間勤務の警備隊の兵士達が一日の仕事を終え、引き継ぎを済ませて兵舎へ戻る頃、食堂では夕食の支度がすでに整えられており、食欲旺盛な男達は部屋へ戻るよりもまず食事!とテーブルにつく。


 今晩のメインは一度焼いた一口大の熊肉と少し大きめに切った数種類の野菜を一緒にじっくり煮込んだポトフ。


 パンは食堂の達が朝晩焼いている。


 間違いではない。 兵士達の親と似たような年回りの彼女達はなのだ。


 兵舎に入ると先輩から後輩へと最重要事項の一つとして指導を受けるので、作る者と食べる者のどちらも心穏やかに食事時間を維持することが出来ている。


 今夜の夕食用はややハードな歯ごたえがある大きめの丸パンで、テーブルの真ん中に山盛りでドンッと置いてある。


 イドロスと並んで座ったマルクは丸パンをちぎるとポトフに浸して食べ始め、イドロスはポトフの具を先に食べ始めた。


「今日も飲みに行くのか?」


 熊肉をフォークに刺して口に運びながらイドロスがマルクに聞いた。


「いや、今日はやめておく。

 先日購入した剣を使って鍛練しようかと思ってな。 慣らしをする時間が欲しかったから、この後修練場の利用申請をしたんだ。

 イドロスも一緒にやるか?」


 マルクは口に含んでいたパンをゴクリと飲み込んでから返事をして、さらに問い返す。


「そうだなぁ、剣の相手はともかく、最近は書類仕事ばかりで体がなまっているから、一緒させてもらえるならありがたいな、いいか?」


「もちろん大丈夫だ。 食べ終えたら隊服を着替えて修練場に来てくれ。 洗濯物を出しておかないと《お姉さん》方にせっつかれるからな」


 チラッと食堂の奥に目をやる。


「ハハハ、わかった。 少し遅れるかもしれないけど着替えたら行かせてもらうよ」


 引き続き夕食を進めようとしていると、食堂の入り口から入ってきた兵士がイドロスの名前を呼んで見つけると、来客がある旨を伝えられた。


「おうっ! ありがとう……」


 連絡役をしてくれた兵士に礼を言ったものの、半分も食べていない温かい夕食が名残惜しい。


 しかし、この時間の来客はマルクスク商会の来客であることがほとんどなので仕方ない

 。


 温かい夕食は諦めてマルクに断りを入れる。


「悪いな、修練場には行く時間があれば行かせてもらうな」


「いや、来客なんだろう? これは俺が片付けてておくからさっさと行ってこいよ」


「ありがとう、では頼む」


 片手を上げて食堂を去っていくイドロスのために、達に何か夜食になりそうなものを頼んでおくかと、マルクは置かれたままのトレーを自分の近くに寄せた。




 ※ ※ ※ ※ ※




「やっほ~! イドロス~久しぶりじゃないか~!」


 来客用の部屋に入ると、ソファーに座っていたのは赤茶けた髪を背中で一つに三つ編みした従姉のライラ・マルクスクだった。


「あんたが国境警備隊に入ったなんて知らなかったよ~。

 ちょっと前に飲み屋で私から声をかけた奴がいたんだけどね~、ジールが『国境警備隊のやつだ! 』って怒るからどうしたのか聞いたら、あんたの管轄だから手を出すなってことだったみたい。 そんなにこだわらなくてもいいじゃないのよね~」


 脚を組んで座っているライラはカラカラと笑う。


「で、実際どうなの~? お国相手に商売したって利益薄そうな気がするんだけど、イドロスの目のつけどころは油断ならないからな~」


 じとっと見つめる目は面白いことしてるのを知っているぞと言っているようだ。


「別にこれといって新しい品物を紹介したりはしてないよ。 頼まれたら取り寄せするくらいかな。 もちろん時には大量に注文をいただくこともあるけど……。

 そりゃ俺も立場があるから、一応俺が手配出来る品物で、尚且つここで利用されるだろう品物の一覧リストは作ってある」


「ほらほら~、店舗も持たないのにしっかり利益出してるみたいじゃないか~。

 アタシはジールの武器屋を軸にさせてもらってるから、もしこっちのが必要になれば連絡ちょうだいね~。お安くしてあげるかも」


「その時は、かも、じゃなく安くしてよね。

 しっかしジールの品物の発掘センスは本当に素晴らしいからライラが羨ましいなぁ。 いい相棒を見つけたよね」


「フフフ、あげないわよ~」


 素直にのろけるライラはいつもは豪快な従姉なのに、こういう時は少女みたいに可愛らしくなる。


 多分ジールもこれにやられたんだろう。


「ところで最近新しい魔道具の話は聞いてないか? 魔術を妨害するようなやつ」


「はぁ? 魔術を妨害?

 そんな魔道具なんて……って、ん? でも妨害と防御はまったく違うとは言えないか……。いや、違うか~?

 魔術を妨害するような魔道具なんて、かなり上位の魔導師じゃないと作れないんじゃないかな~。

 受けメインの防御魔術ならともかく妨害となると発信タイプだろうから攻撃魔術扱いになるだろうから、作り上げた時点でいろいろ問題になりそうだね~。

 で、なんでまたそんな魔道具を探してるわけ~?」


「探してるわけじゃなくて、あるのかどうか聞いただけだ。 ジールならそういうの詳しそうだろう?

 ちょっとおかしな事があったんだけど原因がまだわからなくてね、もしそんな魔道具があれば可能かもしれないと、俺が勝手に考えてるだけさ」


「また難しいことを考えてるんだね~。 残念ながらお姉さんは知らないよ~。 でも面白そうだから、もし何かわかったら教えあげるし教えてくれてもいいわよ~」


っていろいろあるよな……」


「え? 何か言った~?」


「いや、やはり女性は大切にしないといけないなと。 …………強いものには………」


 後半はぼかすように言う。


「なにそれ? まぁ、女性を大切にするのは当たり前よね~。

 そうそう、これシャイナから預かってきたの。 はい、渡したからね。 じゃまたね~」


「かよわい……?」


 ライラは散々喋った後に、シャイナからだという包みを一つテーブルに置いて立ち上がると、後ろ手に手を振りながら帰って行った。


 これが訪問してきた理由だったらしい。



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「裁きの賢者と裁きの部屋」を読んでくださりありがとうございます。

 現在、こちらとは違う別の小説を書いています。

 題名は「王妃でしたが離婚したので実家に帰ります」です。

 しばらくそちらにかかりきりになりますので、こちらの更新はかなり間隔が開くと思います。

 気長に再開をお待ちいただければ幸いです。

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裁きの賢者と裁きの部屋~人々の物語~ 金色の麦畑 @CHOROMATSU

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