Track.6-14「……どいたま」
下腹部、鼠径部、臀部。
簡単な話だ。
通信を傍受し返した望七海は相手が水門付近にて履物を転送しそれを履くことを知ると、それよりも速く
今回の戦闘訓練にて水中でも
そしてその策は、予想以上の戦果をチームFLOWに齎すことになる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
すでに玲冴は冷静さを失った。
身体能力が向上したとは言え、単純思考の馬鹿力が単身真っ向から突進してくるだけだ。
もはやそれはもう戦闘ではない。
『――冴玖!?』
『もう終わりだ』
だから、外部から強制退界の
空間が割れると同時に極彩の渦が彼女を取り込み、すでに対象を失った虚空を、“咲き誇る”鬼灯の赤熱する伸びた刀身が両断した。
『芽衣ちゃん、心ちゃん、お疲れ様。相手チームが
「
告げられ、そう言えばそういう機能もあったなと芽衣は思い出した。
ただしそもそも
飯田橋での異界攻略の際は芽衣を守る必要があったために航は敢えて離脱機能が付随した兵装を用いず、
結果だけ見れば、茜は離脱したもののその原因は自爆であり、芽衣も負傷しはしたが現在の
「――ふむ……航の言う“新装備”とやらは1種類しかよく解らなかったが、ひとつの戦闘訓練としては面白かった。なぁ?」
食い入るように画面を見詰めていた常務・
「ええ――ですが、オペレーター同士のあの
「私も――どこか、足の引っ張り合いをしているような……あまりいいものとは思えませんでしたが……」
「成程――航。だ、そうだが?」
呼ばれ、航はにやりと口角を上げた。そして椅子から立ち上がると、自慢気に口を開く。
「概ね、仰る通りとは思います」
遠隔で離脱機能の
「ですが開発部の立場から言わせてもらえば、交戦中に敵陣営の用いる通信回線を傍受・奪取できるという強みはご覧いただいた通りかと思います。異界調査では無用の長物と思われがちですが、結局異界を創り上げているのも同じ人間ですし、先月の
「成程――――」
常務・和泉は深く頷く。しかしその顔は難しく、両隣の役員たちも同じ表情をしていた。
「取り敢えず航、あと、石動支部長。電話回線と衛星回線と軍用回線の件で話がある、後で役員室に来なさい」
「はい。ちなみに常務、資料は何部必要ですか?」
◆
「と、ゆーわけでー。第……何回だったか忘れたけど定例会議を始めまーす」
火の
所謂“お誕生日席”或いは“上座”と言うべき、暖炉を背にした席に座る白い少女はいつもと変わらない快活で小馬鹿にしたような口調で語りを続ける。
「えーっと、今日の欠席者はー、いとちゃんと、あと
夷を向いて左側の遠くに座る褐色肌の少女が立ち上がり、簡潔に名前だけを告げる自己紹介をしてぺこりと頭を下げた。
「
そしてリニの対面に座るのは、対照的に白い肌の――夷ほど病的なほどでは無いが――見た目や佇まいから何処となく育ちの良いお嬢様といった印象を受ける少女だ。ブレザーに袖を通していることから学生――おそらくは高校生――であることが伺える。
胸元まで伸びた毛先が波打つ
その少女に関して、薄暗くて傍目にはよくは判らないが、しかしその場にいる誰もが気付いていることがある――目の奥が濁り、輝きを一切纏っていないということだ。
ひなむーと呼ばれた彼女が内に孕む闇は
黒く長い髪を揺らしながら立ち上がると、リニに倣って少女もまた頭を下げた。
「
「はーい、しくよろー。リ二ちゃんもひなむーも、本番の日には当然、ひなむーに関してはそれまでの間に動いてもらうので、会議は確りと聞いておいてください。議事録は前回までと同じく書記の阿座月くん。阿座月くーん?」
一同が呼ばれた
「ほら、僕が字を書くと、アレじゃないですか」
にこりと細めた目で微笑む真言に、夷もまた笑顔のままで大きく舌打ちをした。しかし誰もその遣り取りには触れない――日常茶飯事だからだ。
「何がどうアレなんだってツッコミは置いといてー――リニちゃんはいとちゃんに、ひなむーは土師ちゃんに伝えておいてくーださいっ」
両者が共に頷き、そして会議は本題へと移る。
「クローマーク社の魔術警護の日程が決まりましたー。今回も前周同様、11月16日から12月27日までのよんじゅー……」
「42日間です」
リニの隣――リニと夷の間――に座る青年が横槍を入れる。肩や頭の位置からして真言よりもおそらく背は低め、小柄だろうと推察される。
真言がシャツにジレを纏う小綺麗な格好をしているのに対し、彼の格好は
室内のため
額を見せたアップバングの髪は茶けており、左耳には髑髏を冠したピアスを着けている。見た目だけの印象で語るなら、お世辞にも大人しいとは言えず、どちらかと言えばやんちゃだと形容出来た。
「カゲくん、ありがちぃ」
「……どいたま」
一見朗らかに見えるその遣り取りも、片方は仏頂面だ。カゲくん、と呼ばれた青年は実につまらなさそうに虚空に目を泳がせている。
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