Track.3-2「後には引けない、ってやつです」
「訓練はどうですか?」
「ぼちぼちさ」
地形踏破、探査、隠密機動、追跡、そして戦闘。森瀬と安芸と鹿取の三人は、この一ヶ月という短い期間で必要とされるほぼ全ての訓練をこなしていた。
それぞれに得意・不得意はあるが、新米の魔術士としては高評価が続いている。
「あとは共闘訓練くらいだよ」
俺が自慢げに告げると、モニター越しに三人を見つめる間瀬は納得したように頷いた。
「急成長甚だしいですね」
「地力が馬鹿みたいに高いとこからスタートしてっからな」
おそらく魔術士の生まれである鹿取の入れ知恵だろうか。あの三人の自主
また、暗視能力を鍛えるためか、隠密機動を行って互いに見つける訓練や、【
しかし
森瀬は、対象の選別をすでに可能としていた【
三人の中で最も高い機動力と戦闘力を有する安芸は、特に格段に伸びた、ということは無かったが、ひとつの新技が確立した。
俺が直接見たわけではないが、驚くことに安芸は魔術士の体内に特殊な一撃を叩き込むことで、一時的に安芸の【
ただしいつでも可能なわけではなく、安芸自身もその低い成功率に辟易していたそれを、
術というよりは技術であるその一撃を、安芸は【
鹿取は最も成長を見せなかったが、もともと魔術士であり
しかし時間のある際にクローマーク社の技術開発部でその宝術の力を貸してもらい、術を刻む賦与の術式の記述に改善点を見出したりなどした。
解析やこういった術式の記述はうちの会社だと玉屋が最も秀でているが、宝石に術を込める技術を研鑽してきた宝術士の家系で育った彼女の知る理論の中には、我々からすれば目から鱗であるものも多く、特に彼女の得意とする双術――炎術と氷術について、すでに開発の終えていた兵装への転用を試してみると、発揮できる威力の向上が見込めたのだ。
それから鹿取と玉屋の間柄が深くなっていったことは特筆に値すべきだろう。いい人材を手に入れられたものだ。
その三人と俺との合わせて四名で編成される、クローマーク社の第三の調査団チーム
四人の
全く、ワクワクさせてくれるぜ。
ちなみに、三つのチームとも「F・L・O・W」の四文字で構成されているのは、その文字ひとつひとつに信念を割り当て掲げているからだ。
F――
L――
O――
W――
これら四つの
これら四つの
俺たち魔術士は、どうしてもそうじゃない一般人と比較して強力な交戦手段に富んでしまう。それが、装備で身を固め徒党を組むんだ。こんな理念でも掲げなければ、気がつかないうちに、知らず知らずの合間に殺人集団と化してしまわないとは言い切れない。
そもそも、クローマークとは復讐者が集まって築かれた組織だ。人材に恵まれ、今ではその血も薄まってはいるが、その事実は覆らない。
復讐に取り憑かれた殺戮集団にならないために。知識を、技術を、そして魔術を正しく社会のために行使するためには、正しい理念に従わなければならない。
それが、“正しく”と社名に刻んだ理由でもある。
「でもこの様子だと、いつでも異界調査を任じても良さそうですね。間に合って良かった」
「どうした、まさかご指名か?」
間瀬はニヒルに笑い、ゆっくりと、しかししっかりと頷く。
「勿論指名させてもらいますよ。予想していた以上に、
詳しく聞くと、
勿論、どの異界が渡れる異界かは現時点では解っていないし、下手に動くと渡れる異界を変更されたり、隠れてしまう危険性もあり手を出せない状況なのだとか。
そこで、多くの調査団を起用して一度にそれぞれの異界を叩き、奥へと渡って幹部やボスを叩く、一網打尽の作戦を立案しているところらしい。
その中にうちの会社のチームも参加して欲しいのだと。
「まぁそりゃ普通に依頼出せよ。うちは今調査に出てるチームは無いからな」
「それはありがたい。研究を押して焼肉に行った甲斐があったというものですよ」
「それ関係あるか?民間企業だぞ?」
「ありますよ。顔は繋いでおくに越したことはありません」
そして間瀬が再び調査に戻ると席を立った時。そう言えば、と不意に振り向いた間瀬は、驚愕の事実を叩き込んでくる。
「今回の調査ですが、あの“
「――マジかよ、必死だな」
「ええ、必死ですよ。上長の意思に反してやっていることですから。私財も投与しています。後には引けない、ってやつです」
“
「そうか。まぁ、ご指名とあればどんな状況でも
「ええ、そうしていただけると助かります。それでは」
「ああ。間瀬君、ご武運を――」
礼をし、間瀬は
ちょうど、訓練を三人も奥から戻ってきていた。
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