Ⅲ;原 罪 と 顕 現
Track.3-1「森瀬さんの伸び代が特に目立ちました」
そもそも認識が違う。
あたしは“死”を、生物の持つ生命活動の停止、と捉えていた。
でもそれは違うはず。だって“死”は実に多様的だ。時代や環境の変化で、いとも簡単にその輪郭と色彩を歪める。
あたしを
あたしを、“あたしじゃないもの”に変えようとしているんだ。
思い出せ。
思い出せ。――かつて、あたしはあたしじゃなかったことを。
かつてのあたしを“殺して”あたしはここにいるということを。
この身体を構成する細胞に習え。
生まれ変わるためには、“死ぬ”ことが必要だった筈だ。
心臓の鼓動を失うことだけが“死”なんかじゃない。
お前があたしをあたしじゃなくさせるのなら――
――あたしはお前を、“殺せる”ってことだ。
◆
げ ん と げ ん
Ⅲ ;
◆
採用年齢が引き下げられたとは言え、三人はまだ高校生だ。魔術士の家系の生まれである心はともかくとして、芽衣と茜は専門的な魔術の学習や訓練の経験に乏しい。
そのため学校での授業とは別に、企業側が業務に最低限必要な知識を授ける機会を設けたり、特に異界入りを前提とする場合は
「お疲れ様でした」
奏汰の部下の一人である男性方術士は訓練を終えた三人を出迎え、それぞれに汗を拭くためのタオルや水分補給のための飲み物などを配りながら、その結果についての講評を口にする。
「地形踏破訓練については三名とも全く問題ありません。日頃からパルクールの訓練をされているということですので、その成果が顕著に出ていると思われます。特に安芸さんに関しては、異術の効果下で既存の地形を殆ど無視することが出来ますので、こと地形踏破に限れば今すぐにでも異界調査に参加できると思われます。これに鹿取さんの支援魔術が乗算されれば言うこと無しですが」
茜は文句なしの褒め言葉に白い歯を見せ、振り返っては芽衣と心に煽りつける表情を見せつけて笑った。
「ですが鹿取さんや森瀬さんが劣っている、ということではありません。鹿取さんはこの三名の中では唯一支援魔術を習得していますから、地形条件次第では安芸さんの機動を上回ることも勿論有り得ます。森瀬さんについても、鹿取さんから、或いは他の魔術士から支援を貰うことで同様に安芸さんをオーバーテイクすることも可能です」
今度は芽衣と心が、どうだと言い返す表情で茜に迫り寄った。
「続いて、後半に行われた探査訓練ですが――森瀬さんの伸び代が特に目立ちました」
茜が、芽衣の低い頭に手を置く。
「森瀬さんは瞳術がまだ不十分のようですね。訓練を始めたての頃よりは
頭に置いた手を下げ、その筋の通った鼻先を摘む茜に、芽衣は思い切りその手の甲の皮膚を抓り上げる。
「お前ら、講評はちゃんと聞いとけよ」
「はーい」
三人を採用したことでその直属の上司となった航は、訓練の監督役として常に同行している。本来は技術開発部という、クローマーク社の製品開発に関わる役職の彼であったが、社に所属する数少ない方術士でもあり、そのために彼が担当する案件の幅はかなり広い。
魔術士に最も普及している魔術は斬術だが、しかし最も欲されているのは方術である。
方術の“方”とは“
世界の存在軸が異なる異界の座標を特定しては門を開き、真界と接続・固定して出入りを自由にする。
また、誰も訪れたことの無い異界の地理や地形を魔術によって把握し、その核を魔術によって探査・特定する。
それらの作業は全て方術士の専門であり、調査団がそのチーム編成を方術士を一人以上含んだ四名のグループ二組の計8名でされているのはそのためである。
そして調査団に属する方術士にはA~Fの
余談だが、普及率ナンバーワンを誇る斬術は、様々な魔術の系統が混沌とした系統であるが、その始まりは方術から派生しており、このことは方術の必要性を語る上でよく引き合いに出される事項だ。
そんな方術士・四方月航を
既存の“
その新しいメンバーには、航以下の、芽衣・茜・心の三人が任命された。
11月。クローマーク社は
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