Track.2-25「ハッピーエンド?そんなの要らないよ」
「――またきみを、ころせなかった」
倒壊したビル群と、廃棄された車両の散在する道路。
風化した砂地の荒野。そこに斜めに突き刺さったままもう灯らない信号機。
退廃した風景は青空から降り注ぐ光の粒を受けて歪にキラキラと佇んでいる。
その何もない、未来なんて何一つ何もない風景で、わたしだけが唯一眺めている。
自分で書き上げた
だから、次の瞬間に訪れるモノも知っている。
「ごめんね――」
黒く渦巻く、"死"の群体。
螺旋を描く幾億本もの
その中心で佇む異人を黒く染め上げ、そして世界へと向けて"死"を放ち――
――また今日も、夢から醒めるのだ。
◆
「……ん、――ぁぁああ」
「お
その言葉に眠気を刈り取られたわたしは、掛かっていた
「紅茶、飲みますか?」
「淹れて」
アンティークカップから紅茶を一啜りし、その傍らに置いてあったティーポットを取ると立ち上がる。
白地に黒のステッチが
まぁそんな身なりをしたデルモみたいな風体が、白磁のティーポットを高く揚げてカップに紅茶を注ぐ姿は、もう完全に執事だ執事。本当に誰受けだよ。
「淹れたてですから、温かいですよ」
どこがだよと毒吐くも、その言葉が発せられた瞬間にカップから湯気が立つのだから、言術というのは恐ろしい。
「ミルクは?わたし、ミルクティーが好きって言ったよね?」
「さぁ、どうでしたっけ」
阿座月くんは歩きながら腕を組み右手を顎に当てる仕草で思案する素振りを見せる。何だよ、何やっても様になるってどういう生き物だ。
「お嬢、何やってるんですか?」
「え?」
わたし?きみの真似だけど?
「ミルク、ありましたよ」
そう言ってキッチンの冷蔵庫から牛乳を取り出し差し出す阿座月くん。ちんまりしたティーピッチャーにいちいち入れてからミルクを足す辺り、本当に几帳面だ。わたしだったら気が狂いそう。
「あ、そうだ。わたしってどれくらい寝てた?」
テーブルに着いてほんのり生暖かいミルクティーを飲みながらわたしは訊ねる。
「そうですね――一週間、だと思います」
「あはは、寝すぎだね」
阿座月くんもわたしに倣ってくすりと微笑む。どこか
これでなぁ――爪に黒いマニキュアしてなければなぁ――
「お嬢。それで、この後はどういう動きで行くんですか?」
テーブルについた両肘の先で、その黒いマニキュアの塗られた爪を冠する十指が組まれるも、わきゃわきゃと蠢く。指でダンスでもしてんのか。
「のんびり行くよ。どうせ“
わたしはティーカップの中身を飲み干して立ち上がる。
それに合わせて阿座月くんも椅子を引いて立ち上がる。
「わたしは着替えてから行く。阿座月くんは、先行してて」
「――御意」
そうして阿座月くんは、テーブルの上に無造作に置いてあった黒い布のような帯のようなものを取ると、それを頭に回して装着する――まるでそれは左目だけを隠した眼帯で、そして本来目が見えている筈の箇所には"眼"の
ポールハンガーに掛けてあった
阿座月くんが去った後の
わたしはそれに、暢気に手を振って見せる。勿論、返事など無いのだけれども。
「お仕事頑張ってねー、"
◆
げ ん と げ ん
Ⅱ ;
next Episode in ――――― Ⅲ ;
◆
さぁ――考えなければいけないことは色々とある。
同じ結末にもそろそろ本気で飽きてきたところだ、バッドエンドが飽和している。
グッドエンド、とは言わない。でもそろそろ、トゥルーエンドくらい見させてもらってもいいんじゃないだろうか。
「さーて、と――
――ハッピーエンド?そんなの要らないよ。
芽衣ちゃんと
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