Track.2-2「何から質問してくれるのかしら?」
「でけぇなぁ、おい――」
鼻の先を掻きながらその大きな建物を見上げると、助手席を下りた
「
「にしても常盤って言ったら久遠家の分家筋だろ?何でそんなに金あんの?」
「それは流石に解りませんよ。ほら、行きましょう。待ってるかもしれないじゃないですか」
そう行って玉屋は俺を置いて先行する。
そういう俺もいつもは着ないシャツにネクタイを締め、ジャケットと鞄とを腕に持って先に行く玉屋を追い掛けて小走りする。
正面玄関に回り、総合受付で
常盤総合医院は北館・東館・西館の三棟構成で、今いる北が一般用、東が魔術士用、そして西が研究棟だ。
渡り廊下に面するだだっ広い中庭の観葉植物や日光浴をするじじばば達を眺めながらほんの少し離れた西館へと移り、北館とは多少造りの違うエントランスでエレベーターのボタンを押す。
「あ」
「ん?――よう」
ちょうどエレベーターの扉が開いたところに――通用口から入ってきたのだろうか――奥から見慣れた一人と見慣れない一人の顔を見つけ、手を挙げる。
「……こんにちは」
全身ほぼ黒づくめの
「とりあえずエレベーター来たから乗ろうぜ」
ドアが閉じると、合流した見慣れない顔の方が声をかけてくる。
「はじめまして、森瀬の
森瀬とは正反対の元気が良さそうな少年に、俺も懐から名刺を出して差し出した。
「民間魔術企業クローマークの
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
何をよろしくするのかは分からないが、まぁ礼儀正しいのはいいことだ。でも何故友達が?という疑問を飲み込んで――そこからは何となく会話が無いまま、エレベーターは六階に着いて扉を開けた。
「こっち」
仏頂面に案内され、表札に“常盤美青”と書かれた部屋をノックする。すぐに「どうぞ」と声がかかり、俺が先行してドアを開け、部屋に入る。
「お約束をさせていただきました、クローマークの四方月
「玉屋
出迎えて俺たちの礼を受け取ったのは、何というか――こう、形容が難しい
多分俺より年下で、玉屋よりは年上か。
玉屋もそれを表情にしてはいないが、さぞかしこの眼前の乳神様に畏敬の念もしくは殺意を抱いているであろう――こいつ、
「あら、ご丁寧にありがとうございます。久遠会・常盤総合医院の
見かけよりも若々しい物言いで、白衣の女神は微笑む。
無造作にひとつ横結びにした栗色の髪の毛。白衣の下に着ているニットの
だと言うのに、白衣の上からでも解る腰の
その俺の目線に気付いた玉屋が常盤さんに見えない角度で肘を俺の脇腹に埋め込み、俺は思わず上がりそうになった呻き声をどうにか噛み殺して、笑顔を崩さないように玉屋を見た。
「あれ?もしかして、一緒?」
そして常盤さんは俺たちの後ろにいた二人に気付いたようで、二人は俺たちの影から回って常盤さんの隣に並ぶ。
「ああ、そうか――あなたが芽衣ちゃんを」
森瀬と俺とを交互に見て、常盤さんは微笑んで深く頭を下げた。
「その説は、芽衣ちゃんがお世話になりました」
「あ、いえ――」
「それで今日は、芽衣ちゃんのことについて聞きたい、ってことですよね?」
そう――来院の目的は、森瀬の異術についてだ。
俺は森瀬が、自身の異術について解析をされていないのだと思っていた。
しかしこの少女が現在両親を持たず、どういうわけかこの常盤さんを身元引受人として厄介になっているという
常盤総合医院は魔術士用の医療施設をも兼ね備える。そしてそれは同時に、“異術士の行使する異術を解析する数少ない設備を有する”病院でもある、ということだ。
「芽衣のことになると――」
常盤さんは森瀬の横にいた少年に目配せをした。すると少年は快活な笑顔で親指を立てる。
「ああ、じゃあオレは外してるよ。あ、その間コバルトさん借りていい?」
「ああ、コバルト君なら今は仮眠の時間かなぁ、昨日宿直番だったから。でも仮眠室にいなかったら多分いつものところだから、遊び相手になってあげて」
「ありがとっ!」
快活な少年は研究室を颯爽と出ていく。その背中を森瀬が見送り、常盤さんは俺たちを案内し、応接室へと招き入れた。
ソファに座るよう促され、俺と玉屋は並んで、森瀬は常盤さんの隣に腰掛ける。
「さぁて。じゃあ、何から質問してくれるのかしら?」
どこかあどけない声音を発して。
常盤さんは、小首を傾げて女神のように微笑んだ。
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