Track.1-11「全然ピンピンしてんじゃねぇか」
幾重にも重なった憎悪の言葉が鼓膜を通過して脳を直接揺さぶる。
一瞬立ち
彼我の距離はおよそ3メートル。あと二歩でこっちの間合いに持ち込める――と言うところで、
「喉から手ぇ出るほど欲しいかよっ!」
瞬時に大きく一歩踏み込んで射出された腕を掻い潜りつつ、身体を捻りながら刺羽を振り下ろし、伸びた腕を切断する。
溶けてぐずぐずになった皮膚を纏う紫色に変色した肉は黒い汁を撒き散らしながら暗黄色に濁った骨とともに錐揉みながら跳ね飛ぶ。
「“
新たに射出された腕を
少しばかり面食らったが、あの程度の
「オォ――オォオオォォオオオオ――」
相変わらず苦悶の表情で怨嗟を呟き続ける異形は、いくつもの目で俺の姿を凝視している。
俺もまた、目を逸らしたくなるようなその化物を視界の中心に捉えたまま刺羽を八相に構え直す。
呼吸が整うのを待たずにまた
――ガギィッ!
「
分厚い肉の奥に潜む骨は、融合しているせいか在り得ないほどの硬度を持っていた。
しかも半ば斬り裂いた肉は再生を始めようと内側に力が込められ、骨に食い込んだままの刺羽を抜けない。
「――“
刺羽を手放して地上高2メートルの高さに逃げた俺は、空中で回転しながら自身の
胴体に着地したと同時に、四肢の殺到が再度襲来する。
地面に倒れこむように体を捻りながら――俺は反転する勢いで振り払う左腕を加速させ、握り締めた拳の内に練り上げた魔術を解放する。
「“
殺到する四肢が、展開した魔術の効果範囲に届いた傍から切り刻まれ、断面を後方へと吹き飛ばしていく。
瞬きの間に都合八本の四肢を失った
が、そんなの知らねぇ。
痛みは咬み殺す。敵は叩き潰す。
かつてそれを出来なかった俺に対する――これは、懺悔か贖罪だ。
「
突き刺さったままの。
半ば再生した肉に取り込まれたままの。
手放した愛刀、太刀型甲種兵装・刺羽の
倒れ込みながら肉を蹴って、振りかぶった右拳で思い切り殴りつけて。
「
凝縮した空間を一気に爆発させて高濃度のエネルギーを叩き込む
刃を取り囲んでいた肉は剥がれ飛び、そしてそのエネルギーの直撃を受けた刺羽の刀身は、食い込んでいた骨を割り裂いて地面まで到達した後、そのエネルギーに耐え切れずに中心から断ち切れた。
俺もまた、自身で放った【
「大丈夫?」
駆け寄る森瀬の表情は微妙だ――当たり前だ、格好つけて飛び出した俺がまさかの苦戦をしているのだ。
「全然
表情で苦虫を噛み潰しながら、起き上がって
「――くっそ。全然ピンピンしてんじゃねぇか」
天井に這い上がった
異骸や異獣、そして幻獣を相手にする際に最も厄介なのがあの“再生能力”だ。
あいつらはどんな深手でも即座にその傷を無かったことに出来る。
叩き潰しても、風穴を開けても、切り刻んだとしても――傷の程度にもよるが大体は数秒で修復してしまうのだ。
ただ、切り離された部分は再生されない。だからあいつの足元の地面には、俺が切った腕の先端がまだ転がっている。
数ある魔術士の系統の中で“斬術士”が最も有用とされるのは。
数ある術具の形状の中で“斬撃武器”が最も普及されているのは。
つまりはそう言うこと――幻獣や異獣や異骸を、駆逐できるからだ。
そしてこの戦闘での問題は――この広い廊下の三分の一ほどを占める巨体を切断しきれるような大型の武装を俺が所持していないことだ。
俺の固有座標域に格納している
会社でメンテナンス中である斬馬刀型の
「森瀬さん、頼みがある」
「頼み?嫌な予感しかしないんだけど?」
言葉尻とは裏腹に、緊張した眼差しで俺を真っ直ぐに見つめてくる森瀬。
俺はその視線を真っ直ぐに受け止め、そして跳ね返すように強く目に力を込めた。
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