思春期にさしかかると、誰もが抱く疑問である。
蒼臭く、時と共に、記憶の奥底にしまわれ、普段は思い出す事もない。
しかし、大人へと踏み出す時に、抱く大切な疑問。
この作品は、この疑問の答えを示す。
出会いを偶然と言うなら、人生は白黒の乾燥した世界に過ぎないだろう。
しかし、出会いを必然だと考えるなら、人生は、色彩豊かな素晴らしい経験の時となる。
運命の女神が用意する糸は、ひとつではない。
人生は、用意された糸をひとつひとつ大切に選び取って、ていねいに辿っていく。
物語では、異国に育ち、今はこの国の港町に住む女性。
たった今まで、関係が無いと思っていたその女性の糸が、自分の糸が結ばれている事を主人公は、発見する。
結び目が、導く出会い。それを人は縁と呼ぶのだろう。
縁ある出会は、時に喜びに溢れ、時に悲しみに支配される。
しかし、人生が豊かに色づいていく事に違いは無い。
人の生きる意味は、存在しない。
自身の人生は、自分で意味を持たせるのだ。そのために、糸の結び目を見つけ、辿り、人生に色づけし、豊かなものにしていく。
僕たちは、出会うために生まれてきた。
そして、出会いこそに、意味があるのだ。
それは、素晴らしい瞬間なのだ。
物語は、ここに蒼臭い、しかし大切な疑問の答えを示した。
そして…。
たった今、僕は理解出来た。
この物語は、純粋なのだ。
だから、感動の涙を誘うのだ。
この物語は、読むべきだと思う。
ヘミングウェイの「建築物であって、室内装飾ではない。バロック建築は終わった」と言う言葉が似合う作品だと思いました。
文字として感情を書かないことで、読み手の心の中に圧倒的な感情を描き出すハードボイルドな純文学です。
体温のある情景描写でありながら、無駄のそぎ落とされた文体。
手品のように大胆かつ自然に移り変わりる情景の表現技法。
センチメンタルな描写を廃して描かれる、感情豊かな登場人物たちの人物造形。
作者様の決して単調ではなかったであろう文学に対する試みが、至る所で輝いています。
最終章、作品に感情が持って行かれすぎて、一節、一節を読むたびに鳥肌が立ちました。