第170話

 その先でついにプレートを発見する。イーニアがコンパスを掲げると、意味深なメッセージが浮かびあがった。

「これよりはタリスマンの領域なり。汝、剛勇を示せ」

 ハクアの光を当てても、道は開けない。

「どういうこった? ここまで来て、立ち往生は勘弁してくれよなあ……」

「なぁに、拙僧に任せておれ。おそらく……こういうことだろう?」

 プレートの前でハインが仁王立ちになった。雄々しい右腕が筋肉を膨らませて、剛勇のタリスマンを輝かせる。

「ぬぅんッ!」

 ハインの一撃はいとも容易くプレートを粉砕してしまった。

 グウェノは呆気に取られる。

「た、ただの力技じゃねえか……」

「いいえ。剛勇のタリスマンが『鍵』になったんです」

 みっつのタリスマンを揃えた者だけが、この先へ侵入できるようだった。

 しばらく進むと、また別にプレートに行く手を阻まれる。

「汝、叡智を示せ……です」

 しかし求められるものは『力技』ではなかった。

 台の上には奇妙な立方体が置かれている。六面のすべてが九つに割れ、色は滅茶苦茶に混ざっていた。誰もが初めて目にする『キューブ』で、一様に首を傾げる。

「……?」

 皆で触るうち、段ごとに回転させられることがわかった。

「ひょっとして……色を揃えろ、ということでは?」

「なるほどな。ジュノー、頼むぞ」

「え? ま、待ってください。これは『叡智』の試練なんですから」

 キューブはジュノーからイーニアへ、イーニアからハインへトスされていく。

「パズルは苦手でして……」

「拙僧がバカ力で壊しても、まずかろう。ほれ」

 確信犯もおり、謎めいたキューブはグウェノの手に渡った。

「へいへい、わかったよ。ちょっと待ってな」

 グウェノはどすんと座り込んで、キューブのパズルに四苦八苦する。

「……ど、どうなってんだ? これ、ほんとに揃うのか?」

「頑張ってください」

 少し時間が掛かりそうだった。

「見張りは拙僧が当たろう。セリアス殿、ジュノー殿も少し休むといい」

「すまない。あとで替わろう」

 セリアスとジュノーは休憩がてら、プレートの周囲を見まわす。

「……おや? 見てください、セリアス」

 ジュノーが見つけたのは白骨の死体だった。

 この竜骨の溶岩地帯において、等身大の『人骨』は珍しい。たったひとりで置き去りにされたかのように眠っている。

「冒険者か?」

「どうでしょう……ここまで侵入できるとは思えませんが」

 不思議と白骨に腐食は見られなかった。

 白き使者が溶岩地帯にタリスマンを隠す以前から、ここにいるのだろうか。

ほかでもない白き使者の亡骸という可能性もある。

「ん? そいつは……遺品か」

 その傍らには一振りの『刀』があった。炎のような模様の鞘に収められてある。

 ジュノーがそれに触れようとした瞬間、ハインの大声が響き渡った。

「触ってはいかん!」

 セリアスもジュノーも目を点にする。

「ど、どうした? ハイン……いきなり大きな声で」

「凄まじい邪気を感じてのう。おそらくその刀だ、呪われておるぞ」

 ハインは慎重に妖刀を見据え、息を飲んだ。

「叢雨……ムラサメと書いてある」

「やれやれ。とんでもない宝物を見つけてしまったな……」

「メルメダに知られないうちに、処分しましょう」

 ほかに目ぼしいものは見当たらず、セリアスたちは時間を持て余す。一方、グウェノはずっとキューブに悪戦苦闘していた。ついには万歳のポーズで音を上げる。

「わっかんねえ~! もうオッサンがプレートを壊してくれよ」

 ハインはまるで賢者のように説法を口ずさんだ。

「困難を乗り越えてこそ、己の血肉となるのだ。楽をして何になろう? 若者よ」

「よく言うぜ……こいつをオレに押しつけやがったくせに」

「次は私が頑張ります」

 続いてイーニアが奮闘するも、立体パズルは解けない。

 そろそろ脱出の頃合いでもあった。

「持って帰るか。街には解けるやつもいるだろう」

「い、いいのかしら……」

 ムラサメとキューブを回収し、セリアス団は来た道を戻っていく。

「ロッティにもやらせてみようぜ? ヘヘッ」

「そいつは名案だ」

 そのパズルがごく一部でブームになるなど、この時の彼らには知る由もなかった。

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