第168話
グウェノの矢が唸った。
「そこだっ!」
モンスターは貫かれるのみならず、風の力で引き裂かれる。
新しい弓を掲げ、グウェノは得意満面に勝ち誇った。
「すげえぜ、こいつは! なあ? セリアス」
「ああ。お前の腕も最高だ」
グウェノの背丈にはやや大きいが、折り畳むことで収納も容易い。
「こんなギミックがあるってのに、強度も文句なしと来たもんだ。ドワーフの技術力ってのは、どうなってんだろーなァ」
この弓は狂戦士団が救助の礼として、行きつけの武器屋(ドワーフが経営)に融通してくれたもの。破格の威力を有し、セリアス団の射撃能力は飛躍的に向上した。
ドワーフ族は古来より武具の開発に長ける。
(ミスリルの弓もいい出来だったからな)
おかげで溶岩地帯のモンスター相手にも対等以上に戦えた。
最近はジュノーも探索のほうを優先してくれる。
「ふう……メルメダがいなくても、これくらいの熱さなら、なんとかなりそうですね」
スターシールドと慈愛のタリスマンがあれば、苛酷な熱気も苦にならなかった。イーニアでもタリスマンを制御できるようになったのは大きい。
「ジュノーはもう覆面は被らないんですか?」
忍者ではなくなった色男が苦笑した。
「狂戦士団と、ビースト・アームズにも素顔を見られてしまいましたから。とうとうマルグレーテさんにもばれまして……」
「マルグレーテも知らなかったのか? 意外だな」
雑談の余裕も出てくる。
新しい弓を眺めながら、グウェノは唇をへの字に曲げた。
「問題はこいつの名前だなあ……なんかアイデアねえ? みんな」
自分だけの得物に名前を付けたがる冒険者は多い。むしろセリアスのように『シルバーソード』や『ミスリルソード』で済ませるほうが珍しいくらいだった。
「グレートボウ、でいいじゃないか」
思いつきで返すと、イーニアがきょとんとする。
「え? グウェーノボウにするんですか?」
聞き間違いにしても酷かった。グウェノは落胆し、かぶりを振る。
「……イーニアさんはもうちょい、センスを磨いたほうがいいと思うぜ……」
ハインはぽんと手を鳴らした。
「武神にあやかって、アラハム弓というはどうだ?」
「却下だ、却下! そりゃ、あのバーバリアンの名前だろーが」
やはりセリアスたちの発想には限界ある。
そんな中、音楽家のジュノーが妙案を口にした。
「嵐を呼ぶ弓……ってことで、ストームブリンガーはどうでしょう? 実際に風を操ってるのは、タリスマンですけど」
待ってましたとグウェノが指を弾く。
「それだよ、それ! さすがジュノー先生、センスが光りまくってるぜ」
「同感だ。俺では思いつかないな」
セリアス団がトレードマークとする『ハープ』も、もとはジュノーがデザインしたものだった。今やセリアス団に彼の存在は欠かせない。
「あのぅ、セリアス。センスって、どうやったら身に着きますか?」
「俺に聞かれてもな……」
才色兼備の色男に完敗したうえで、探索を再開する。
コンパスはタリスマンの方向だけを示していた。六大悪魔の反応はない。
「ロッティの言った通りですね。これで、しばらくはエクソダスと遭わずに……」
「今のうちに済ませるか」
溶岩地帯の探索はターニングポイントを迎えつつあった。
エクソダスが暴れたことで、溶岩の量が変動したのだ。以前は橋だった下に新たなルートが現れ、記憶地図も更新されていく。
思わせぶりなレバーを引くと、溶岩の流れが岩で堰き止められた。
「な~るほど! あの神殿と同じじゃねえか」
「火傷には注意せんとな。どれどれ」
やがてセリアス団は未知の領域へ足を踏み入れる。
それまでの洞窟とは一転して、人工的な造りが目立つようになってきた。壁には悪魔のレリーフが彫られ、侵入者たちに黙々と目を光らせている。
「なんだか気味が悪いですね……」
「夢に出てきそうだぜ。趣味が悪ぃよなあ」
左右の溝には溶岩が流れ、通路を赤々と照らしていた。
(溶岩は発光するものでもないんだが……フランドールの大穴ならでは、か)
猛烈に熱いにもかかわらず、冷たい視線を感じる。
ふとセリアスは足を止めた。
「……」
「セリアス? あの……」
ジュノーも殺気に気付いたのか、愛刀の菊一文字に手を添える。
「敵です。ただのモンスターではありませんよ」
ジュノーの索敵は勘によるものだろう。一方で、セリアスはこのタイプのモンスターに遭遇した経験があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。