第26話 決斗 その三
熊八も伊織の背後に立ち、坂道を下って逃げられないように牽制した。手には十手を握っている。
「そこもとは」
下村が問う。
「拙者は関八州取締役、松丸謙吾だ」
「八州周りか。だが水戸の者に手を出せば・・・・・・」
「安心せよ。幕府においても、幕領におけるその方らの振る舞いは問題になりつつある。それに用があるのはそちらの御仁でな。大和久といったか」
「奇遇だな。我らが用があるのもそこの大和久殿でな。組むかね」
「冗談。死体にされても困るしな」
伊織が抜刀した。
「人のことを無視して好き勝手言いやがって。全員斬る」
「食い詰め浪人が言ってくれるじゃないか」
下村が刀を抜く。
「その方も、だろうが」
松丸も刀を抜いた。
熊八の目には刀を抜いて対峙する三人の違いがはっきり映っていた。
旅続きでやつれているとはいえ、松丸は育ちの良さが表に現れていた。
伊織は明らかに苦労してきたと思われた。やせぎすで、真っ黒な肌をしていた。あまり風呂にも入っていないと思われ、顔には脂も浮いていた。
異様なのは下村だった。下村は市井にいるどの人間とも形が合わなかった。町人でも職人でもなく、侍とも違った。戦国の世ならばこんな剣客がたくさんいたのだろう。躊躇なく人を殺せる。凶相であった。
三者は刀を抜いたまま動かなかった。
緊張のせいか、熊八の耳にはやけに蛙の声が大きく聞こえた。
斬撃は三人同時に起こった。
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