第22話 後悔 その一
「世直しとは聞いていたが、そのあと益屋に盗みに入るとは聞いておらんぞ」
勘蔵と初めて話したあの夜のように、また酒をあてがわれ、むかつきに任せて杯を重ね、すでに軽く
「いや、水戸の馬鹿どもを
それをお上には届けられねえと踏んで、盗人に売ったんでさあ。よく考えてるでしょ」
勘蔵の答えは質問と同じく、何度目かの答えだ。
酔った二人は堂々巡りをし始めていた。
目の前の勘蔵が「顔役」だと今日ここで初めて知った。顔役とは盗みのために必要な人材を繋ぐ役目だ。
「主人がやられててんやわんやしているところにつけ込んで盗人が入る。お上に届けりゃ、水戸のこともばれるかもしれない。当然、言えねえよなぁ。こんなうめぇ話はねえ。大和久様だってそのおこぼれをいただいてるんだから、文句ねえでしょ」
言いたくとも言えないというのが本音だ。
齢三十になって弱くなった自分というのとここのところ向き合ってきた。いや不遇のなせる業か。何にせよ、自分が修繕不可能なほどに弱り、破損しているのが分かった。
ところが
かみ合わなかった破片が胸の奥でガチリとはまるのが分かった。
殺しが性に合うのか。
少し愕然としないでもなかった。
いや能動的に動いたことが自分に変化をもたらしたと言って良い。
過去のわだかまりもすっきりとした。
目を閉じると、弘法寺の階段脇の赤い紫陽花の色と、首が切り離された胴から蕩々と吹き出す血潮が浮かぶ。階段下で放心している、手代の亀吉の顔、そんなものがありありと思い出される。思い出すと、なんとも言えない高揚感がある。あの、胸がふわりと浮く感触、それだけはもう一度・・・・・・。
あの日から何かが変わったのだ。
しかし。
「やるわけなかろう。そんな火事場泥棒の片棒を担ぐようなまねを」
「大和久の旦那、いいですかい。そんなことを言って。もう逃げられないんですぜ。どんなに言い繕ったって、アンタとオレたちは
アンタが若いころにやった不始末と一緒。結局誰も信じちゃくれませんぜ。
「若いころにやった不始末と一緒」、「誰も信じない」という言葉が突き刺さる。
伊織の目に殺意が浮かぶ。
「おっと、いけませんぜ。
アッシに何かあれば仲間の一人が関所に駆け込むことになってるんだ。
あそこの役人とアッシら地元の人間は、ズブズブの間柄。それに賭場で十分に遊んでもらってんだ。旦那一人、どうとでもなるんですぜ」
と聞いて、酩酊状態の伊織にもさすがに事態が飲み込めた。
「そりゃ、要は水戸が出しゃばるのは困るってことか。そうか、隣の藩主は堀田
へっへっへ。
勘蔵はあざ笑う。
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