第9話 飴屋のお園 その三

 店の入り口から近所の悪がきどもが入ってきた。みんな泥だらけになっている。きっと真間川の近くで遊んでいたのだろう。みんなで塊になって店に突っ込んできて、なにやら叫び棒きれを振り回す。着物の尻をからげ、泥だらけの尻を丸出しにしている。

 「ほら、そんなに泥だらけになって。店に入るんじゃないよ」

 お園は子どもの泥を洗い流すのだろう。いったん店の奥に引っ込んで水桶を持って出てきた。

 「ほら全員並びな」

 と店の前で全員の足と尻を洗わせた。みんな、「しゃっけー、しゃっけー」とギャーギャー騒いでいるが嬉しそうだった。

 「うるさいねアンタたちは」と言いながらも、お園おばさんも嬉しそうだ。

 熊八は自分の子どものころを思い出していた。やはり自分たちも同じようにお園おばさんの厄介になっていた。おばあさんになっても同じことをしていて嬉しくなった。子どもたちが自分たちと同じように育つのなら、なにも心配がない。お園のような人間がまつりごとに夢中になるような時代が来たら、それこそこの世の終わりなのだろう、と熊八は思った。

 お園のような存在は思想にもまつりごとにも無縁で、ただただ世の中の底を支えている。こういう存在がいなくなったら、世の中は終わるのだ。

 子どもたちはお園おばさんが揚げたかりんとうにかぶりついていた。

 「じゃ、またくるよ」

 「あんたはかりんとうは要らないのかい」

 というお園の声と子どもたちの囃し立てる声に背中を押され、飴屋大黒屋を後にした。いつものように店を出るときに、さっき失敬した大根飴の代金に少し足したお代を置いていった。

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