第8話 飴屋のお園 その二

 「なんか知ってるのか」

 「だから知るわけないだろう。みんな言わないのかい」

 熊八は店頭に並ぶ陳列棚から大根飴を失敬した。口に放り込む。口のなかに、大根の苦みと甘味が広がる。

 子どもの頃ならこんな不しつけなことをすればお園に叱り飛ばされたが、今ではなにも言われない。

 熊八が昔なじみのお園に顔を見せただけで、お園は嬉しそうな表情を浮かべた。お園の心情を知っていて、熊八はその気持ちに甘えるようなところがあった。自分で分かっていたし、大人として、子どものころと同じ甘えは良くないのかもしれないが、それをなんとも変える気になれなかった。

 大きな迷惑をかけなければ良いじゃないか。

 「いや、なんとなく見当は付くんだけどね。付くっていうより、聞いたことあるしね」

 皆が言いたがらないその真相をお園から聞き出せば、お園にその大迷惑が及ぶかもしれない。その自覚はあった。しかし、職責上やらねばならぬ。

 「聞いたら、おばちゃんに迷惑がかかるんだよな・・・・・・」

 「でも、アンタもそれを知らないと立つ瀬がないんだろ」

 「うん。

 聞いてまわっても何も答えちゃくれねえ。こんな田舎でも裏で何かがうごめいているのはひしひし伝わるのさ。

 けれどもそれがなんだかわからねえ」

 「そうかい」

 お園は明らかに逡巡していた。

 「いや・・・・・・」言えないのなら良い、と言いかけると、お園の方から熊八の二の腕のあたりを引っ張って、それ以上言えないように制した。

 「いや、いいんだよ。でも、本当にこのことは内緒にしておくれな」

 「わかっているとも」

 「水戸様のね、浪人をかくまっている、って聞いたことがある」

 あまりの内容に熊八は驚いた。お園の目を凝視する。

 「なに言ってんだおばちゃん。水戸様の浪人が切ったんだろ」

 「逆だよ、逆。どうして匿ってやってんのに斬られるのさ」

 「だって、ここは将軍様直々に治めてる土地だし、旗本衆の御領地だってあるんだぜ」

 「そうさ、アタシだって分かってるよ。ただね、みんなが言うには、後々のことを考えて何か見返りを得るためにやってんだって」

 「見返りね。誰から。水戸様から」

 さあ、と言って、お園は小首を傾げる。

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