第4話 惨殺 その四

 男は刀を振って、刀身に付着しているだろう血と脂を払った。そうして刀を鞘に収めた。

 殺してしまえば、もう用はない。本来なら手代も切った方が良いのだろうが、もうどうでもよくなってしまった。階段をゆっくり降りて、手代に近づくと、手代は気配を察して、身を固くして顔を上げた。白い歯が闇に浮かんだ。白い歯は歯の根が合わず、カタカタと音がしていた。その姿を見てきょうめしたのも、手代を逃した理由だった。

 手代の膝には益屋嘉右衛門の首が乗っていた。

「大事に持ち帰れよ」

 と余計なことを言った。言われなくともそうするか、非が自分に及ぶなら、捨てて逃げるだろうよ。ただ、その言葉で自分が助かるのだということを知った手代は、放心した。呆けたまま、男が去っても、階段をずっと見続けていた。

 男はそのまま大門通りを街道に向かって走って行った。大門通りの両脇は真間川であった。梅雨どきで真間川は増水していて、まるで浜辺のようであった。

 闇が男を包んだ。

 男の後ろでカラスが二羽飛び立ち、大きな黒い羽が舞い落ちた。

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