第3話 アラフォーバ美肉おじさん ピンチを脱する(?)
「そこまでにしなさい、ダンダリエルよ」
「さ、最高神様……」
願いを聞き届けたと頭に声が響き蛇が動きを止めたと思ったら、天から後光の差す老人が姿を現した。俺はその老人のあまりの神々しさに言葉を発することもできず茫然と見つめていた。
よく見れば髭や神が白く、老人というには失礼な容姿をしている。
筋肉が発達した張りのある体にゆったりとしたフーガを着込み、顔立ちは何故かぼんやりとしか認識できないが、穏やかな笑みを浮かべていることだけは理解できた。
正直、男の俺が憧れるほどの理想のイケオジの姿がそこにあった。
「迷惑をかけたな、坂上紘一よ。儂はこの次元世界の創造者じゃ。名を名乗るのは勘弁してくれ、儂の名は力が強すぎて君では恐らく受け止めきれない。“四文字”でも何でも好きなように呼んでくれてかまわんよ」
「い、いえとんでもないです、最高神様」
「ダンダリエルのした事は、神の風上にも置けぬ最悪の所業じゃ。神々とはいずれも身勝手な部分はあれど、創造物のことを愛していなければならぬ。それを利己のために他者を貶めるとは……嘆かわしい」
最高神様が大蛇と化したダンダリエルを睨みつけると、ダンダリエルの姿がみるみる萎んで、元の女神の姿を取り戻した。
「あっ、ああっ!わ、わたくしの力が……っ!!」
見ればダンダリエルに当初の神々しさはなく、くたびれた(そこそこの)美女がへたり込んでいるような威厳の無さとなっていた。
「な、なにをするのです!例え最高神様と言えどわたくしとそこの人間の間に成立した契約に干渉する権限はないはずです!」
「黙りなさい、ダンダリエル!本来契約というものは互いに誠意を尽くして結ばなければならない神聖なもの。それをお前は相手をだますような手を取り、あまつさえ強要するなど言語道断」
「人間ごときに、神と公正を求めるのが間違いなのです!」
「愚か者が……そもそも儂は契約を破ってはおらぬ。坂上紘一は正しくお前のたくらみを見抜いておったし、互いの契約は『奪えるものなら奪ってみろ』というものだったな」
「ですからわたくしは……」
「だからその契約に『他者の助力を請うてはならない』という項目はないじゃろう。儂はこの者の助力に現れたにすぎぬ」
「ぐっ……」
「あの……最高神様、よろしいでしょうか?」
事態を茫然と眺めていただけの俺だが、何となく理解はできた。
「俺、いや、私はそこの女に殺されたと思うんですが、最高神様の力で生き返らせてもらえるのでしょうか?」
「――すまんがそれは無理じゃ」
あー……そういうパターンね。
「死んだ者を生き返らせることは、一部の例外を除いてしてはならぬことなのじゃ」
「一部の例外?」
「神から特別な使命を授けられた『使徒』と呼ばれるものだけじゃ」
「では、私の場合は――」
「おぬしは特に使命を与えられたわけではない。神の過失とはいえ例外は無いのじゃ」
「そうですか……」
「しかしながら、特例措置なら設けられておる」
「特例措置、ですか?」
「死せる者は魂の循環により様々な世界へ転生することとなっているのじゃが、いくつかの特典をつけて転生することを選べるのじゃ」
そ、それって良くあるあの……
「まぁ大体おぬしが思っておる通りじゃな」
「おおっ!異世界チート転生ってやつですか!?」
「チート、と呼べるかどうかは微妙じゃがな」
最高神様はテンション爆上がりの俺を苦笑をしながら眺めている。
「ともかく、おぬしには儂からの祝福とダンダリエルから奪う力の一部を……」
「はぁっ!?最高神様御冗談を!なぜこの高貴なわたくしの力をこんな
人間をゴミムシって……。
とことん救えないクソ女神だな。
「黙れ!!お前は既に神としての資格を失った。神の力を全て奪い、人間として転生しやり直すがよい。数千年も善行を積み続ければいずれ下級神へ戻ることができよう。消滅させないのは今まで世界の管理神としてそれなりに真面目にやってきたお前への情けじゃ」
「わ、わたくしが、
「これは決定事項じゃ。ダンダリエル、お前には期待しておったのに……残念じゃ。それでは、刑を執行する。またこの神界で会えることを願っておる」
ダンダリエルから光の粒子が溢れ出し、最高神様が掲げた掌へと吸い込まれていく。
「ひ、ひいいいぃぃ!わ、わたくしの力が……数千年分の信仰があああぁぁぁぁ!痛い痛い痛い痛いいたいいいいいいいいぃぃぃぃ!!!!!」
ダンダリエルはもがき苦しみながらのたうち回っている。手足が痙攣し、口から涎をまき散らし、涙を垂れ流しながらも、その視線は俺を捕らえていた。
「す、すべてお前のせいだっ!呪われろ!!お前の次の生に災いあれ!お前が転生したとしても、どこへ行こうとお前を探し出し、殺して殺して殺して殺して、魂が疲弊して滅びを望むまで殺しつくしてやる!!」
ダンダリエルから黒い靄が沸き上がり、蛇の形となって俺の方へ飛んできた!
やばっ、もがき苦しむクソ女神の動きにドン引きして、反応が遅れた!
「い、いかんっ!!」
最高神様が掲げていた手と反対の手から光線を飛ばして蛇を打ち抜くが、頭だけになった蛇が俺の左手に噛みついた。
「ぐっ!?」
反射的に蛇の頭を叩き落としたが、俺の左手の甲に蛇の噛み跡のような黒い染みができていた。
「はははははははは!ざまぁみろ!あーっはははははは!いひひひひひ」
「愚か者がぁ!お前は今ここで滅びよ!」
「あがぁっ!!」
狂ったように嗤い続けるダンダリエルは、最高神様の言葉により全身が真っ白になって砕け散った。
砕けた破片は風に巻き上げられるように粉々になり、散っていった。
俺の左手は未だズキズキと鈍い痛みを訴え続けていた。
アラフォーバ美肉おじさん異世界へ転生し女神と崇め奉られる てろめあ @agata-syuji
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