第2話 異世界

パーティー当日、佳奈は緑のきれいなドレスを身に纏っていた。理正も黒のスーツを身に纏い、娘は理正の親に預け二人で会場に向かった。大理石でできた階段をコツコツコツと上がっていく。会場はまるで城のような建物で、借りるのだけでゼロが気が遠くなるほどつきそうだ。

四方八方にシャンパンタワー、大きすぎて落ちてこないか心配なシャンデリア、駐車場にはベンツやポルシェやフェラーリの大群、庭には噴水という完璧な別世界。いや異世界というレベルか。

「本日は皆さん、お忙しい中お集まりいたただき誠にありがとうございます。」源ホールディングスの会長

源隆だ。しばらく挨拶したのち、乾杯をし、理正ら二人の前に近づいてきた。

「いや~佳奈、理正君。よくきたね~。」

理正「ご無沙汰してます。」

佳奈「久しぶり、お父さん。」

源隆「元気か。」

家族の何気ない会話が始まった。

しばらく話すと、「じゃあ個別に挨拶に回るから」と源氏は二人を後にした。

すると、奥の方から「お嬢様」と声がした。

佳奈が振り返ると、そこには四、五十過ぎぐらいの黒のスーツを身に纏った男が近づいてきた。

石岡乳業株式会社の社長、石岡雅人だ。

石岡乳業はかなりの大企業で、石岡の経歴もすごい。かなりのインテリだった。

「ご無沙汰してます。石岡さん」

「いやーいつ見てもお美しい。」

その男は佳奈のドレス姿を見て褒めてみせた。

と思うと次に口を開き

「お隣の付き人の方もご一緒で」

と、余計な一言を言い始めた。

「いえ、この人は私の夫です。」

「あーこれは失礼しました。そうでしたね、ご結婚されていたんですね。」

佳奈は明らかに嫌な顔をした。理正もこいつはやばいやつだと察した。

石岡は悪びれる様子もなく、

「ちなみにご職業は?」と理正に聞いた。

「保健師をしています。食品の衛生管理などを」

「あ、保健師さんだったんですか。それはそれは、

で、失礼年収の方は?」初対面でそんなことを聞いてくるなんてなんて失礼なやつだと思ったが、

「三百五十万ぐらいですかね。」と答えた。

すると、「ほ~」と息を吸い込むようにしてあごを少し高くあげた。「私らの若い頃はね、男が女房に給料が負けるなんて表には出られないぐらい恥ずべきことだったよ」

理正はカッとなって「あの、何が言いたいんです?」と獲物を狙うハイエナのように言った。

しかしすかさず、「どの面下げてここへ来たんだ」と言葉が返ってきた。

横にいた佳奈が「ちょっと石岡さん。やめてください!」と割って入っても、石岡は止めなかった。

「ここに来たのは誰のおかげだね?横にいる奥さんのおかげだろ。よくもまあー来れたものだな。俺なら出す顔がないよ」

佳奈「ですから止めてください。」

その言葉を無視して石岡続けた。

「佳奈お嬢さん、あなたにはもっとふさわしいお金持ちの男性がいたでしょ。どうして」

佳奈と理正は大学時代の他大学合同サークルで知り合った。佳奈の大学はかなりのエリートでお金持ちの家の子が通う大学。理正側の大学はコンプレックスで関わろうとはしなかったが、理正一人だけ気にせずフレンドリーに振る舞った。元々高学歴の女性なんて男子は寄ってこないと思っていたこともあって、佳奈は理正のこの行為が嬉しかった。そこから次第に二人は引かれていき今に至る。

佳奈と石原が言い合いになってる所をただただ理正は見ているだけだった。もう呆れてキレる気もなくなった。佳奈が怒りが滲み出た顔で「行きましょ」と言って二人で会場をいったん出た。

トイレに行ってくるっと一言佳奈に声をかけ、男子便所の個室に入ると、心の傷口を洗い流すように泣いた。なぜあんな目に遭わなきゃならない。自分だって努力してきた。成績はともかく勉強だってしてきた。なのに結婚したことが罪なのか?収入が嫁に負けちゃいけないか。こっちだって頑張って働いている。保健師は昇級すれば、社長ほどじゃないけどかなりの額をもらえる。それでもだめか?こんなことを思いながら泣いた。その時、右ポケットに入れていたスマホが鳴った。

出ると、藤谷からだ。

涙でかれた声で「もしもし、どうした」というと、電話の向こうはかなり焦っていた。

「やばいぞ!テレビつけられるか」

「いや、今は出かけてて無理や。なんかあったんか?」

「じゃこの場で言うわ。近隣の小学校で集団食中毒や」



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