#1話 『I’m from 裏ダンジョンーI’m from secret dungeonー』

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「ねぇ、もう帰ろうよ!バレたらやばいって!?」


「大丈夫だよ、クーフェ。魔力抑えておけば、絶対にばれないって。」


「そりゃそうかもしれない...けどさぁ…。」


この日のために研究した擬態の術は、絶対に見破られない自信があった。それだけ、精巧に人間の形を真似できた。


「この国の王子って、魔族の姿の俺の顔面に結構似てるたしいぜ?ちょっと角を隠すだけで、そっくりさんだぜ。」


「はいはい。あんまりイケメンじゃないって点では私も同意よ。」


「ひでーな。それは、あんまりだぜ…。」


俺は、彼女にも聞こえるように『ッチェ』と舌打ちをする。ーー確かに、そんなにイケメンじゃないかも知れないけれど。


「でも…これが地上なんだな。…いっぱい人がいるし、活気に満ち溢れてる。それに、美味そうな匂いが色んな建物から漂ってくるぜ!な!?クーフェ。」


「分かった、分かったわよ!全く、ダンジョンを抜け出して、地上に遊びに来た..なんて、ダンジョンのミンナにバレたら、ケツバットノック1000本の刑だよ…。」


ケツバットは凄く痛そうだ。幼い頃に悪戯をして、こっ酷く叱られたときの苦い思い出は二度とごめんだ。もうあんな思いはりだ。


ただ、なんで俺たちがそんなリスクを負ってまで、今ここにいるのか...。


「これが、じいちゃん達がいた“地上”ってヤツなんだな…。」


「そうね。私達の祖父母が住んでいた世界。…そう思うと、ちょっと感慨深いわね。」


俺たちがここにいる理由。それは、今は亡き祖父母が生まれた地上を、一度見てみたかったからだ。ハイデと横にいる幼馴染のクーフェは魔族デーモン人間ヒューマンの“混血ゲシュ”である。100年以上も昔に、地上からやってきた凄腕の冒険者モノノフ達は、「裏ダンジョン」と呼ばれる地で余生を過ごし、魔族との子を生んだ。それまで人間という種と、交流を持たなかった魔族デーモンだったが、彼らが人間ヒューマンという種を受け入れることに抵抗がなかったのには理由がある。


人間は、その地方ごとに肌の色や瞳の色が異なるが、魔族デーモンは姿形が十人十色なため、人間ヒューマン同士の白人、黒人の違いなんて、些細な問題であった。人の形を保っており、言葉を発しているのであれば、何ら問題ないという程度の認識だった。もちろん、魔族の中にも、サキュバスや堕天使などの人間が美しいと思う種はいるし、全てが異型な訳ではない。


ただし、余りにも色々な見た目の種が一緒に生活しているために、もはや、人間ヒューマンが6人ばかり紛れ込んだ所で、悪目立ちするほどの環境でなかったのが、自然にお爺ちゃん達が「裏ダンジョン」に馴染めた理由だと、昔聞いたことがある。そして、何より...魔族デーモンという種は、平和主義であり、戦いを好まない種族だ。


ちなみに、俺は古代悪魔オールドデモン人間ヒューマンの“混血ゲシュ”だ。そっちのクーフェには淫魔サキュバスの血が流れている。


まぁ、ふたりとも人間の血が流れているから、少し魔力操作をするだけで、99.9%は人間に近づくことができるのだが…。角も魔術で消せば問題ないし…。


「それにしても…。本当に人が多くて活気があるよなぁ…。昨日は、なにかのお祭りだったみたいだし…。」


俺たちの故郷である裏ダンジョンは、ゆっくりとした時間が流れているけど、少し退屈な感じが否めなかった。魔族デーモンは寿命が凄く長いから、おっとりとした平和主義者が多かった。そのためか、魔族デーモンのミンナは穏やかな生活が良いと言っていたけれど、俺的には物足りなかった…。それは俺が“混血ゲシュ”で、人間の血が流れているか…、はたまた、魔族デーモンほど寿命が長くない性なのかはわからなかった。


「どこを見渡しても“人、ヒト、ひと”って感じだな!!って...あれ、クーフェどこにいった?」


初めての地上に内心はしゃいでいたせいか、クーフェを置いて、人混みの中を進んで着てしまった様だ。


「おっと、クーフェを探さないとなって…うおっ!!」


ーードンッ!!


人混みの中をすごい勢いで走ってきた男と肩がぶつかる…と同時に、男は転んでしまった。俺は種族的な問題で、ビクともしていないが、爆走男はコケて尻もちを着いたせいか、痛そうにうめき声を上げている。


「い゛だーーーい゛・・・し、しんでじまう゛ーー。」


「おいおい、大丈夫かよ…。でも、死ぬって大げさな…。」


「我輩…痛いのは苦手なのである…。で!あ!る!が、しかし、今は逃げるのに必死なのである…。」


コートに身を隠した男はお尻を擦りながらも、俺の方を向き謝罪の言葉を向けてくる。


「お主…急にぶつかって悪かったのであーる…。謝るのであーる。許してほしいので、あぁ...あ゛あ゛あ゛!!!」


「おいおい…次はどうしたんだよ。どっか、別の場所を痛めたのか…?」


なんで俺はこいつの心配をしているんだ、という気持ちに駆られながらも、なぜか憎めない男の話を聞いてしまう。


「お主…なんて我輩に似とるんじゃ…瓜二つじゃないないか…なのであーる!!」


「そんなわけ…俺に似てるのは、この国の余りイケメンじゃない王子ぐらいって、げげっ!?」


フードを取ったその男の顔は、確かに俺に似ている…。爆走男の素顔は、角を隠した俺の顔に、余りにも似ていて少し自分でも惹くぐらいだ…。


「おいおい…。この国の王子様がなんでこんな所に…。さすがに、俺が地上の事を知らなくても、王子様がこんな…みすぼらしい格好で、夜逃げするみたいな真似マネはしないことはしっているぜ?」


「地上…、というのがなんの事か分かりかねるであーるが、紛れもなく我輩はこの国の第1王子のダン・ル・ドヴァール。これでも、王子なのであーる。」


「いや…そんな格好で言われてもなぁ…。」


同じ顔をした男が、仮にも帝国王子だと知ったときには、会ってみたいと少しテンションが上がったけれど、理想と現実は随分と乖離ギャップがあったようだ…。それにしても、一国の王子がこんな格好をしているんだ…?


「なにか…訳ありか…?」


ダンは、その余り美しくない瞳に、ウルウルと涙を浮かべながら、お涙頂戴とばかりに語りだす。


「聞いてくれるのか友よ!!我輩はその心使いが嬉しいのである…。我輩は…今、誰にも頼れず…逃げているのであーる…。ウウウ…ヴワーン。」


「コラッ!泣くな泣くな、目立つだろ!仮にも、追われている身なんだから…」


《それに…、自分と同じ顔が、泣きべそをかいているのは、精神安定上、非常に良くない。思った以上に…キツイ…。》


「泣くのは、後でも出来るだろ。まずは、どこか身を隠すぞ。」


「わ、わかったのであーる。感謝するのであーる。…そ、そういえばお主の名は…。」


「あ、俺の名か?...ハイデだ!」


「ハイデ殿!いい名前なのであーる。…それでは…誰にも見つからない様に…ひっそりと裏道に移動するのであーる。」


そう言って、俺たちは出店が立ち並ぶ小道をスルスルと通り抜け、たどり着いた裏路地は、異様なほどに静まり返っていた。俺たちは、再び会話を続ける。


「で、一国の王子がフードに身を包んでいた理由を聞こうか。何に巻き込まれているんだ?」


「うーむ、どこから話したものか…実は…。」


ダン王子の話を要約すると。帝王争奪戦ザ・ゲームという玉座を争う貴族間の抗争に巻き込まれたらしい。

この帝王争奪戦ザ・ゲーム、実はすごく手が混んでおり、巧妙に張り巡らされた網から、王子も簡単には逃げることが叶わず、見すぼらしいコートに身を包み、周囲の目を騙しながら、命からがら逃げ出してきたとのことだ。

国民には知らされていないが、既に現帝王や女王は崩御しており、その重大な国家機密を隠蔽する裏で、次の玉座をかけた勝負ゲームが行われているとのことだ。


帝王争奪戦ザ・ゲームーーーそれは、次の玉座を掛けた王族間の進退を掛けた冷戦。現在、ダンの親父であるダノス前帝王が治めてきたオルメド帝国は、帝国本国セントラルと、その本国周辺の小国郡である七つの盾マーシャルセブンスによって成り立っている。


帝国王族の分家である七大貴族ヘプタロゴスは、帝国周辺の小国郡である七つの盾マーシャルセブンスとして、帝国の手となり足となり、周辺国家に睨みを効かせていた。敵国と国境を接する7つの軍事小国家は、その国家面積こそ、帝国本国セントラルには負けるが、保有軍事力は、小国ひとつひとつが帝国本国に匹敵していた。理由は簡単であった。守られる側の本国セントラルは、隣国との厳しい戦場に立ち続ける七つの盾マーシャルセブンスの戦力を拡充を非難することができなかったのだ。そのため、帝国本国セントラルと小国7カ国は、立場上は本国がトップであるが、実態としては、小国マーシャルの発言権はもはや本国セントラルに比肩するものであった。近年では、小国マーシャル本国セントラルの実権を握ろうと、国家転覆を密かに狙うほどであった。しかし、表立って反乱を起こせない事情がある。


1つ目の事情は、力の均衡バランスである。七つの盾マーシャルセブンスは、それぞれの小国の軍事力は拮抗しており、どこか一つの小国マーシャルが反乱を企てようものなら、他が束になって潰すためだ。お互いがお互いを牽制しあい、我こそが次の帝国の王になろうと、七つの盾マーシャルセブンスの小国王達は野望を抱いていた。


2つ目の事情。それは、隣国の敵国の存在である。帝国はその土地柄、4つの他国に囲まれていた。連邦国、亜人国、義勇国、神拝国である。連邦国とは現在同盟状態にあるが、何時裏切るかの保証はできない。亜人国と義勇国とは、小競り合いは覗いて、十年ほどは大きな戦いは記憶無いが、常ににらみ合いの状態は続いている。神拝国に関しては、宗教上の小競り合いが絶えない。それ故に、表立って、内乱を起こすわけにはいかなかった。隣国へ自国のすきを好き好んで見せる事はしたくない。なぜなら...その先にある自滅への道は、全ての小国王の望むところでは無かったからだ。


しかし、小国王達は自分たちこそが帝国本国セントラルの王座に座るに相応ふさわしいと野望を捨てることは無かった。だから、七つの盾マーシャルセブンスの王達は、内密にある取り交わしを行ったそうだ。


1. 帝国本国セントラルの帝王と王女の暗殺されても黙認すること

2. 帝国本国セントラルの王子は、あ《・》る《・》まで殺さないこと

3. 帝国本国セントラルの帝王の席が空席になった後に、一人残った王子プリンスに嫁がせるプリンセスを七カ国から一人ずつ選出し、王子に選ばれた者の父親が帝王になること

4. ゲームの勝者は次の帝王となり、全ての者は新たな帝王にひれ伏すこと


ダン王子は、内通者である嫁候補達の机の中を漁り、この内容が書かれた文書を見つけたという…。自分の結婚する相手までも、策略の渦中にいる人間っていうのは、王子が救われないと同情する。


そして、文書の最後には…こうつづられていた。帝王になったあかつきには、王子の生死は問わない。帝王を継いだものの意向に従い、処することも咎めない。


嘘のような反逆が現実のものとなったのは、暦歴卯の月の十二日目の夜。全ての七つの盾マーシャルセブンスの王たちが帝国本国セントラルに集まった帝王の誕生祝賀会の晩餐会の夜、歴史の裏で帝王は静かに崩御された。


これがダン王子から起きた7日前の帝王暗殺事件のことの真相である。


「ったく。王族ってのは、いつの時代も権力権力…そんなに食ってうまいもんじゃあるめーし...」


「ははは、ダン殿は面白い御仁であるな…。確かに権力は美味しくないであるが、王になれば、ご馳走もたんまりであーるよ?」


「それは…ちょっと惹かれるけど…それで自分の親戚を殺すなんて、信じられねーな…。俺の故郷じゃミンナ仲間が基本だぜ?」


「それは…凄く羨ましいであーるな…。王族とは自分の権力のために、時として親族の命を奪うこともあるのである…。そんな世界より余程楽しそうである…。」


「ダン王子は、なんとなくだけど…穏やかに過ごしたいって顔をしてるもんな!」


「そ...そうなのであるよ…。正直、権力とか玉座とかには興味はなくて…この国の民と共に、静かに過ごしたいだけなのであるよ。」


ダン王子の顔には、隠しきれない苦い表情が浮き彫りになった。まだ、短い間しか会話をしていないが、ダンは恐らく平穏を愛する平和主義者なんだろうと想像できる。


そうこう考えながら、王子ダンの方に目を向けると、涙目でモジモジしているのに気付く。自分と同じ顔の男が、ナヨっとしているのを見るのは、自分じゃないと分かっていても…


《ナヨナヨしてる自分を見るのは、ちょっと気持ち悪いな…。もうちょっと…こう。》


「なあ、ダン王子…いや、ダン!!俺と同じ顔をしているんなら、もっと堂々としていろよ!...確かに大変だとは思うけどさ…。」


「はは…ハイデ殿は優しいのであーる…。そして、強い人なのだろうな。我輩も…ハイデ殿の様に胸を張って生きれたら…こんな事にはならなかったのかも…。」


気の毒な話だが、黒い陰謀が渦巻く王宮の暮らしは、平和主義者のダンには合わなかったようだ。


生まれた時代が悪かったのか、生まれた環境が悪かったのか。


少なくとも、彼が裏ダンジョンに生まれたなら…こんなに精神をすり減らして生きずに済んただろう。あの場所には、静かな時間が流れているから。


《ん…?待てよ…。そうだよな…その手が合った…。》


「なぁ…ダン。そんなに平穏に過ごしたいなら…良い場所があるぜ?」


首を傾げて『分からない』と言った表情をするダンに、俺はニヤリとほくそ笑んだのだった。


続く。


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#2話『Will you go to 裏ダンジョン ?ーWill you go to secret dungeon?ー』

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