告白シミュレーション

八百本 光闇

告白シミュレーション

「俺はお前のこと……好きだ。付き合ってください」

「もちろん。私も、ずっと前から、好きでした」

 私達は手をつないだ。



「く、くく、ははははははぁっ!」

 亮太りょうたは私が作った小説の最後の文まで読み終わると、バンバンと机をたたいて笑った。きっと下の教室まで響いてしまっていることだろう。

「そんな笑うことないでしょ!」

 私は椅子から立ち上がって、笑いながら亮太を睨みつけた。

「いやぁ、だってこんなの俺との妄想垂れ流してるだけじゃん。ホントにこんなの投稿するつもりだったのか?」

「なにか悪い?」

「悪くないですぅ〜」

 と、ニヤニヤ笑って言いながら、亮太は自分の席に戻って帰りの用意をし始めた。そうだ。私もはやく用意しなきゃ。




「なあ里奈りな。ちょっと、公園寄ってかね? ちょっと話したいことがあるんだ」

 下校中の道にある公園を横切ったとき、亮太は私の肩をぽんっと叩いて言った。

「ん? いいけど、なんで?」

「行ってから話す」

 亮太は頭にハテナしかない私を公園へ押していった。


「ささっ、ここにいてねぇ?」

 亮太は私をベンチに座らせ、彼も座った。

「で、話っていうのは……」

 亮太は私の言葉を遮って、言った。

「俺はお前のこと……好きだ。付き合ってください」

 一語一句、間違いなく。

 私が次に言うべき言葉は決まっていた。考えるよりも先に言葉が出た。

「もちろん。私も、ずっと前から、好きでした」

 私達は手をつないだ……

 つながなかった。

 代わりに、亮太は悪趣味な笑顔を私に向けて、

「な〜んちって! 嘘でしたぁ!」

「ちょっと! 亮太!」

「しゃあないな、じゃ、手だけはつないでやる!」

 亮太は立ち上がって、私と手をつないだ。

「亮太……」

「ほら、行くぞ!」

 亮太は私の手を引っ張って、走り出した。


 あ~あ。嘘だったのか。なんだかがっくりした。……でも。


 亮太のはしゃいで走る、その笑顔は偽物ではない。









「く、くく、はははははははぁっ!」

 亮太はまた机をバンバンと叩いて笑った。



 ……いったい何回目なんだろう。あと何回、告白シミュレーションをしたら、いいのだろう。

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