死にたがりと永遠を求めた魔女
ラズが郷を去って、200年と少しの時が流れた。
結局あいつは私の元にたどり着くことができずに死んでいった。
何度も何度も森に入っては魔法で追い出され……を繰り返し、王になっても暇さえあれば森にはいり、挙げ句の果てには王のくせに子供も残さず死んでいった。
そんな彼のことを、私はこの日まで、忘れたフリをしていた。
「サラ。調子はどう?」
「ん、へーき。それよりね、シェラ。私、あなたに渡したいものがあるの」
身重のサラがベッドから起き上がろうとして、慌てて私はそれをとめる。
「どこにあるの? 私がとるから、おしえて?」
「そこの戸棚の、三段目。そう、それ」
サラに言われた戸棚を覗いてみるが、そこには何もなくて首を傾げる。
「二重底になってるのよ」
どうしてもシェラに見つけられたくなくて、とサラは苦笑した。
ならどうしてこんな土壇場で言うのか不思議に思いながら、魔法で二重底を外す。
「……サラ、これ」
「あの人からの手紙。最後の日に、自分がここにたどり着くことなく死んでしまったらシェラに渡せって言われてた。渡す気なかったんだけどさ、自分がこうなっちゃったから」
開封した跡のある手紙を茫然と眺める。
サラはそんな私を眺めて微笑みながら話を続ける。
「ほんとはさ、私も死ぬ気はなかったよ。シェラとずっと一緒にいるつもりだった。でも、恋しちゃったんだ。こうして、子供もできちゃった。そしたら変だよね、シェラのことを苦しめた憎い男としか思ってなかったあの人の気持ちがさ、わかっちゃった。シェラの優しさを受け取れない馬鹿な男だと思ってたのにね……とにかく!手紙は渡したから。読むも読まないもシェラの自由!」
サラは一気にそう言って、目を閉じた。
柔らかな笑みを浮かべて、目を閉じた。
それだけで私はサラの体に何が起こったのかを察した。
「だいすきだよ、サラ」
遺された手紙とサラの子供を瞳にうつして、そうつぶやく。
あの日流しきったと思っていた涙を、ポツリと落としながら。
『ミシェラへ
自分の気持ちを伝えるためだけの手紙なんて書くのは初めてだから緊張しちゃってるけど、言いたいことはしっかりと書こうと思います。
この手紙を君が読んでいるということはミシェラと再会することなく僕が死んでしまったということで、できれば読まれたくないものです。
とりあえず、今これを読んでいるミシェラに謝罪を。
不甲斐ない男でごめんなさい。
次に、感謝を。
きっとミシェラは僕が死んでしまうと思ってたからなんだろうけど、魔女の、君の秘密を余すことなく教えてもらって、嬉しかったです。
もちろん治療してもらったことも感謝しているけど、ミシェラを愛した今となってはそれが一番嬉しいと思います。
ミシェラ。君が長く生きたいことも、僕を殺したくないと思ってくれたんだろうこともわかっていたけど、僕はわがままなので君を愛し、愛されたいと思ってしまいました。
治療中、僕を王太子ではなく僕としてみてくれた君を。
ありふれた理由なんだろうけど、実際そうなんだからしょうがないよね。
ミシェラ。死んでごめんね。苦しめてごめんね。愛してます。
こんな僕を、許してとは言わないけれど、忘れないでいてくれると嬉しいです。
ミシェラの幸せを、心の底から祈っています。 ラズ
P.S. 貴女がもし今までとは違う願いを胸に宿したならば、私の部屋の緑の小瓶を。
愛する親友の力になれることを祈っています。』
死にたくなかった。永遠を生きることが夢だった。どれだけ愛する人が死んでも、それだけは変わらなかった。でも。
自称親友の用意してくれた小瓶を手に取る。長年死にたくないと思い続けてきたからか、瓶を持つ手は震えている。
それでも
それでも魔女は毒を飲む 空薇 @Cca-utau-39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます