雪シネマ
Mondyon Nohant 紋屋ノアン
前編
「ひと冬にたったの一日、それも
室内には二人しか居ないのに
「きまった日に、行なわれるの?」
「
前の晩から降りつづけたぼた雪が夜中のうちに止むと、
靄は凍みた雪原を
ひと冬にそんな朝は何回かあるが、
生まれて初めて映画を観た日だった。映画館からの帰り道、僕は
玄関を上がるなり、怪獣映画のスペクタクルを
「シェ・ティェンイェン?」
王爺さんは映画のことを「
その日観た映画に刺激され過敏になっていた僕の好奇心は、当然、王爺さんに
「
僕が育った雪国の
晴れた朝は雪の
霧の朝も晴れた朝と同様、雪面はカチカチに凍みている。僕は、自転車を
「友達と
「そのうちに、
「チンドンの音だね」
「王さんの国にはチンドン屋さんはいなかったけどね。その音にあわせて、
見えてきたのは、
やがて、大看板の下あたりの霧の壁が向こう側から押した
「ご
「狐だよ」
「キツネ?」
狐狸の物語は、ほかの年寄りからうんざりするほど聞かされていたが、王爺さんからこの手の話を聞くのは、そのときが初めてだった。
「王さんは狐に化かされてしまうのかと、いっとき悲しくなったんだが、ふと、化かされてみるのも面白いかもしれないと思った。化かされて死んだとか大怪我をしたとかって話は聞いたことがないし、狐や狸や妖怪には
王爺さんは、
「まさか人間は見物しておるまいなあ」
と狐が言った。
こいつめ俺がここに
「もし見物していたら、どうしてくれようか」
と、狐がそっぽを向いたまま言った。
王爺さんはこんなふうに問われた時のこたえ方も村の年寄りから聞いていた。
「福を
そうこたえるのだ。すると相手は、
「ようし、もし見物していたら、福を授けて祟ろうぞ。千金与えて祟ろうぞ」
と
この時、恐れずにこたえることができた者は、以後、
王爺さんは、息をいっぱいに吸って、大声で返事をしようとした。ところが、さっきまで憶えていたはずの言葉が出てこない。馬鹿忘れをしてしまったのだ。
「福を授けて……」という
「もし見物していたら、どうしてくれようか?」
狐は声を高くして、問いただすように言った。
どうしても憶い出せず、
「ちゃんと憶えていたのに忘れちゃったんだ。でも、大人になったらきっとおもい出すよ」
と大声で言ってしまった。
狐は、「福を授けて祟るがよい」という
口をポカンと開き、舌を横に
「コ~ン、コンコンコン」
と大笑いして、
「ようし、もし見物していたら大人になってからおもい出してもらおう」
そう言うと、
その
カシャカシャと映写機のまわる音が響き、
雪電影がはじまった。
*1 シネマ(cinema)イギリス英語≒movie。映画興行、映画館といった意味もある。中国では一般的にcinemaは影院(映画館)と訳される。戲院=劇場。
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