生保大戦7(終)
時は流れて、それから2カ月が経過した。
「では、誕生日を過ぎて、申請して・・・何月から年金が入るか確認しましたか?」
もうすぐ廃止になる加藤に、社会保険事務所で、年金の確認をさせたのだ。
年金を開始される月と、実際に入金される月が違う。
だから、そのタイミングをきちんと確認してから廃止する。
ちなみに、恵子さんは、術後良好で、抗がん剤による治療も終了している。
最近は、癌も切れば治るんだなと思う。
書類の確認を終えたのち、いよいよ廃止の時期について確定させようと話を進めていると、加藤が怖い顔を、さらに怖くして、私の話の腰を折る。
「・・・あの、実は、ボーリング場の裏にある、ごみ処理をする会社の社長が・・・」
加藤が驚くべき話を始めた。
<回想開始>
加藤が、毎日、ボーリング場の前の立哨に立っていると、ガタイのいいおじさんが、歩いてきて話しかけてきた。
「お前、毎日、感心だな。どこのもんだ」
加藤に聞いた話を私の脳内変換すると、忍者の漫画に出てくる、ガマガエルの親分みたいな感じだと思うので、そういう感じで、すすめたい。
「え・・・はい、九龍城に住んでます」
「・・・でm仕事は?」
「・・・はい?」
「仕事はしているのか?」
ガマガエルの親分は、キセルに火を入れながら、偉そうに続ける。
「あの、いえ、実は、生活保護を受けていて・・・」
「・・・ほう・・・そうか。何で、毎日、立ってるんだ」
親分は、気持ち目を細めて聞く。
加藤は、顔に似合わず、恐る恐る、話を続ける。
「あ、いや、その、国からお金をもらうので、せめてもの社会貢献と思って・・・」
急に親分が、加藤の背中をたたく。
「気に入った! うちに来い! 毎日、真面目にやってると思ってたんだ」
「あ、いや、その・・・」
「いいから、終わったらうちに来い!」
<回想終了>
「というわけで、仕事を初めまして・・・生活保護は今月いっぱいでいいです」
「!?」
加藤は私の知らないところで、親分と戦って勝利していた。
「大戦」ではないかもしれないが、その年で仕事をゲットするなんて大したものだ。
女性は、意外にパートというか、レジ打ちとか、年をとっても、仕事があるが、50歳過ぎた男性で、肉体労働しかしていない人間が働けるような場は、少なくとも地方都市には、ほとんど存在していない。
そんなつもりでやらせていたのではないが、こんなことになっていた。
全く、人の世とはわからない。
加藤よ、きみは本当はもっと早く仕事をしていたのではないかねとか、場合によっては、収入の不正申告の疑いがあるのではないかねとか、いろいろ言いたいことがあるのだが、ここは大目に見て、辞退届を書いてもらおう。
加藤よ、恵子さんを大事にしたまえ。
そして、二度と生活保護など、需給してはいけないぞ。
私は菩薩の気分で、辞退届を受け取った。
加藤を帰宅させて、事務所に戻り、軍曹に報告すると、なぜか大騒ぎが始まった。
「就労廃止だと!?」
軍曹が大声で叫び始める。
「ええ、仕事が見つかったと・・・」
「すげぇな! この年齢の男性を就労廃止! どんな手品を使った! やるなぁ!」
「あ・・・いえ」
軍曹の声がでかくて、課長とか課長補佐とかが集まりはじめる。
「ほう、めずらしいね」
ピカード課長が冷静につぶやく。
以前、説明したが、髪型と雰囲気から、ピカード艦長ならぬ、ピカード課長と心の中で読んでいる。
「ぐはは、就労廃止とか・・・無理やりきったんじゃないの?」
くそ、赤鬼め!
うるせえぞ。
いつも、マイナスな意見しか言わない。
そのくせ、こいつも声がでかい。
ちなみに、課長補佐は多分、酒焼けで、顔が赤いので、そう呼称している。
「ぐふふ、監査対策になるね・・・きちんと就労指導してるって書ける・・・念のため、就労先をきちんと把握しといて、うひひ」
隣の係のホームレス係長が、接近したきたので、避難する。
なぜ、ホームレスかって?
容姿も、机の上も、机の中も、自宅もホームレス状態だからだ。
「姉御! すげえっす! 来たばかりで就労廃止っすか!?」
ナッパが叫ぶ。
「あ・・・あはは・・・」
どうやら、就労廃止は珍しいことがわかった。
「え? 就労廃止?」
「死亡廃止じゃないの?」
「無理やり切ったんじゃねえの?」
ガヤガヤ
それと・・・うちの課は、騒がしいこともわかった。
イタコの生活保護(なまぽ)ケースファイル @fuji_yoshi
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