生保大戦6
私の家と職場を直線で結んだちょうど中央付近が九龍城。
九龍城の前を通らないルートは、ガチで駅前を通過するルートで、バスも多く、従って交通量も多くて、通りたくない。
結果として、私は、毎日、九龍城の前を通ることになる。
「車に乗っている姿をみられると、車に何されるかわからないので、自分の車では訪問に出かけないように」と言われているが、通勤路なので、これは仕方がないと思う。
もっとも、見られたくはないという気持ちもある。
もちろん、この見られたくはないというのは、若気の至りで、いろいろと私の車の車体には絵が描かれており、数年前、ちょっと恥ずかしくなってきたので、旦那に頼んで、車全体に磁石性のシートを作って貼って隠しているのを、見られるのが嫌だという意味ではない。
ま、それはそれで嫌なのだが・・・。
とりあえず、車を特殊コーティングで覆ってから、「イタコ」も卒業したのだ。
あとは、あのオークを滅すれば、私の黒歴史は、完全に闇に頬むることができる。
いつかやってやる。
妄想が過ぎたが、九龍城付近は、港湾地区なのであるが、若干の民家やマンションがあり、若干の子供がいる。
その子供は、九龍城より、少し駅よりのボーリング場の前の横断歩道を通ることが多い。
しかし、元々、人口が少ないこの地域では、横断歩道に信号機が付いていない。
でも、直線道路で、ある意味、スピードを出せる道路であるため、子供には危ない。
加えて、人口が少ないため、誰も立哨していなかった。
私が通りかかると、子供が不安そうに横断歩道に立っていた。
もちろん、公僕である私は、スピード落とすが、その前に、でかいおじさんが、手に黄色い旗をもち、ぬぼうっと出てくる。
そう「ぬぼうっ」だ。
なんとなく、ぬりかべを思い浮かべてしまったが、加藤だった。
加藤は、そのでかい体と、黄色い帽子と黄色い旗で、車にプレッシャーをかける。
すると、私の前の車が停車した。
加藤は頭を下げると、子供を渡らせて、再度、車に頭を下げた。
黄色い帽子と旗が真新しい。
恐い顔と、でかい体に、真新しく輝く黄色のアクセント。
ユーモラスさえ感じる。
毎日だ。
所長民生委員が、地域の要望で、人を探していたが、通勤時間に合わせて立哨してくれるような酔狂な人間がいなくて――たぶん、みんな働いていて、通勤があるからね――困っていたところ、私の言葉に反応して、この役目を押し込んできたのだ。
雨の日も、風の日も、雪の日も立っている。
感心なものだ。
恵子さんの手術費用を全額出すという話のついでに、ボーリング場前の横断歩道の立哨の話をすると、2つ返事だった。
別に、手術費用を特別に出してあげるわけではなく、生活保護を受給すると、医療費はこちら持ちになるのだが、変な意味でタイミングが悪かった。
加藤には、もしかして、毎日、立哨しないと手術費用を出してやらんぞという脅しになってしまったのかもしれない。
仕事はあまり探していないようだが、年金をもらうまであと少し。
子供たちが交通事故に遭わないためにも、厳しい就労指導をして、無理やり廃止に追い込むより、いいのではないかと思った。
生活保護者の家には定期的に訪問しなければならない。
就労指導をしている加藤の家には、毎月1回は必ず行かないといけない。
加藤は、私が毎朝、加藤の立哨を確認しているのを知らないので、訪問すると、真面目に立哨をやってますと報告してくる。
かわいいやつじゃのぉ。
一方で、私が担当になってから、一度も会えないやつが何人かいる。
もっと言うと、前担当者から、家を教えてもらってない保護者もいる。
ちょっと怖い。
なんでだろう。
いろいろやらかし気味のオークに追及したいのだが、仕事をまだまだ覚える段階なので、追及しにくい。ようするに、あまり追及しすぎて、敵に回したくない。サラリーマンはつらい。
最も経験がないので、オークからの引継ぎ内容が、普通なのか、普通でないのかも判断付かない。
なに、このブラック職場。
公務員なのに・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます