生保大戦5
「どうよ、あいつ、どうなった!?」
所長民生委員、声、でかいっすよ。
ちなみになぜ「所長」かというと、私の彼の第一印象が、某休載の多いマンガのとある島から脱出する際のカギを握っている、面構えが極悪非道な所長だったからだ。
うむ、今、考えてもよく似ている。
ナイス! あのときの私。
「ええ、生活保護開始する予定です」
「そうか、あんまり、よく知らない人物なんだが、なんとなく、真面目そうな奴だな」
生活保護を開始するときは、民生委員の意見書が必要である。
九龍城の民生委員は所長。
というわけで、私は、加藤本人に書類を持たせて、民生委員に書いてもらうように指導。
民生委員が、加藤を面接し、「意見書を書いたので、取りに来いよ」と連絡があったので、取りにきたのだ。
民生委員に持ってこさせる?
そんなこと、怖くて言い出せません。
郵送させないのかって?
そんなこと、恐ろしくて言い出せません。
少なくとも、今はまだ。
そのうち、念を覚えて鍛えれば、言うこときかせられるかもだけど。
そのためには、師匠を見つけなければ・・・
「あいつ、まだ、58だろ? 例の紙、書かせるのか?」
「ええ、もちろん」
所長民生委員は、民生委員歴が長い。
うちの市では、収入申告書(要するに収入の状況を報告させるもの。生活保護って、生活できる最低限を保証するものなので、例えば10万円が最低生活費と算出されて、1万円の収入があれば、9万円支給されるというのが基本的な考え方)と一緒に、就労活動報告書(文字通り、就職活動の状況を報告させるもの)を、民生委員を通じて生活保護者に配布しており、つまり、書類を民生委員が見ることがある。というか、個人情報って何っていうくらい、見まくりである。
場合によっては、市役所まで来たくない連中が、民生委員に預けたりするのだ。
市役所に近い民生委員や、他の用事で市役所に来ることのある民生委員は、生活保護者の書類を預かって持ってきてくれる。大変ありがたい。
え? 所長?
私が取りに来るにきまってるじゃないですか。
現場百回っすよ!?
え? 使い方が違う?
円滑な人間関係の形成には、きちんと対面で会うのが一番なんです!
「そうか、でも、あいつ、もう、就職、難しいだろ? ガタイはいいが、あの年齢じゃあ・・・」
「そうなんすよ、でも、年齢的に、何かさせないと、いけないんですよ」
「うちの店は、もういっぱいだしな・・・」
所長民生委員は、顔がとても怖いが、なぜかとても面倒見がいいので、どうしようもない生活保護者はここで働かせて、飯を食わせてやってる。
ただし、きちんと給料を支払ってるかどうかはしらんが。
さすが所長。
生かさず殺さずっすね!
「何かないですかね。私としては、夏にあるマラソン大会のボランティアでもさせようかと思ってるんですけど・・・」
私の出した結論。
せめて、社会貢献でもさせようかと。
人事異動する前の担当課で、ボランティアの担当もしていたので、仕事ができなくても、何か社会に貢献するようにできれば、いいかなと思ったのだ。
少し考える所長民生委員。
「おぉ・・・なるほど・・・そういうのでいいなら、ちょいと相談がある」
そこで、口の端だけくいっとあげるなよ。
絶対、悪だくみの顔だよね。
こわいじゃん。
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