生保大戦4

ナッパが、勢いよく電話を取ると、秒で、こちらを見る。


「姐御! 光星病院のソーシャルワーカーから電話っす!」


光星病院は、我々の係のエリアにそびえ立つ、病床数300床を抱える中規模病院だ。

しかし、いつの間に姉御呼ばわりされるようになったのだ?


「はい、藤伊です」

「どうも、光星病院の金ケ江。早速ですが、加藤恵子さんの医療費は、いつからそちらに請求できるんですか?」


来た。

光星病院の守銭奴ソーシャルワーカー。

病院とはいえ、金がないと運営できない。

だからきちんと金の話を持ってくる。

病院にとっては掛け替えのない存在で、こちらにとっては鬱陶しい存在だ。


「えっと、まだ、生活保護開始してませんが・・・」

「申請日はいつですか?」

「あっと・・・先週の金曜日です!」

「了解です! では金曜日分からですね!」


ま、申請日から、10割生活保護で請求できるから、申請日は大事。

まさか、病院の受診日をごまかしたりしないよね?

ため息を吐きながら電話を置くと、ナッパが話しかけてくる。


「姉御! こないだのでっかいやつ、申請受けたんすか?」

「えぇ・・・58歳、稼働年齢層なんだけど、奥さんが癌でね」

「58じゃ、なかなか仕事むずかしいっすね・・・まぁ、仕方ないっすね」

「・・・そうなのよ、でも、就労指導しなきゃね」

「そおっすよね、面倒くさいっすよね」


そうなのだ。

60歳までは、稼働年齢層と言って、要するに働けるのが前提である。

とくに加藤の場合は、本人は健康。

したがって、「働けない」ではなくて「働かない」ということになる。

奥さんが病気とか、そんなのは関係ないらしい。

とにかく、20歳以上、60歳未満だったら、「就労指導」をしなくてはいけない。

「就労指導」とは、「職安に行け」とか、「チラシみて応募してみろ」とかの指導をするということだ。

しかし、58歳で、奥さんが病気なのに・・・まぁ、法律ってそういうもんだよね。


「就労指導の報告、書かせなくっちゃ・・・奥さんの付き添いとかあるのにねぇ・・・」

「でも、何にもさせないわけにはいかないっすよ!」

「・・・そうよね、何かないかしら・・・」


今日はため息の多い日だ。

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